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慢性血栓塞栓性肺高血圧症に対するバルーン肺動脈形成術

<慢性血栓塞栓性肺高血圧症CTEPHとは>
 慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH:chronic thromboembolic pulmonary hypertension: )とは、肺動脈の器質化した血栓が慢性的に狭窄や閉塞を起こし、それが原因となって肺高血圧症をきたしたものです。
 
<CTEPHを疑う主な症状としては>
労作時息切れ
労作時の低酸素(SpO2低下)
足のむくみ
 などがあります。症状の起こりかたとして、慢性血栓塞栓性肺高血圧症に急性の肺塞栓症を発症する場合もありますし、慢性に徐々に息切れが進行する症例があります。
 特に肺気腫や間質性肺炎等の呼吸器疾患がなく、他の疾患では説明の出来ない労作時息切れが6ヶ月前と比べて悪化している場合には、CTEPHを念頭に置く必要があります。
 
 ひどくない後、低酸素血症を起こす場合は、CTEPHを疑って検査をする必要があります。CTEPHを疑う場合、当科外来(金曜日:肺高血圧外来 担当 木下)を受診いただければ詳細に検査をさせていただきます。
 
<CTEPHを発症しやすい疾患としては>
急性肺塞栓症、深部静脈血栓症(エコノミークラス症候群)の既往
血液凝固異常
心疾患
骨盤内手術
悪性腫瘍
 などがあります。
 
<CTEPHを診断するための検査>
CTEPHを疑った場合は、まず外来で以下の検査をおこないます
  • 胸部X線検査
     胸部X線にて心拡大(心臓の大きさ)の程度や、合併する肺疾患がないか評価します。
     
  • 血液検査・血液ガス分析
    血液検査で血液凝固能の状態や、心臓に対する負荷の程度を評価します。
    また、低酸素血症の程度を動脈血液ガスを採取することで検査します。
     
  • 心臓超音波検査
    心臓の機能の評価と、肺高血圧、右心室への負荷の程度を、心臓超音波検査(エコー検査)にて、評価します。
     
上記検査でCTEPHが疑われれば、さらに以下の詳しい検査をおこないます。
 
  • 肺血流シンチグラム
    肺血流シンチグラムでは区域枝以上の大きさの欠損を認める
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  • 造影CT検査
    肺動脈の造影CT検査により、肺動脈内の器質化した血栓の有無や近位部血栓の有無を確認します。
     
  • 右心カテーテル検査・肺動脈造影検査
    肺動脈内に直接カテーテルを挿入して肺動脈圧を実測します。
    また選択的に肺動脈造影をすることで、末梢に存在する器質化血栓の有無を確認します。
 
<CTEPHの診断>
診断基準
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CTEPH患者さんの平均肺動脈圧と予後の関連
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Riedel M, et al. Chest 1982; 81: 151–158.
 
 平均肺動脈圧が30mmHgを超える患者さんは、生命予後(寿命)が悪化することが報告されており、薬物療法や手術・カテーテル治療で肺動脈圧を下げる治療を行います。
 
<CTEPHの治療>
  • 酸素療法
  • 薬物療法
  • 血栓内膜摘除術
  • バルーン肺動脈形成術BPA
 
 以前は重症例に対しても酸素投与などの対処療法しかなく、肺動脈圧が高いほど予後不良とされてきましたが、近年は新規薬剤も使用可能となり、肺血栓内膜摘除術(PEA)やバルーン肺動脈形成術(BPA)などの治療によって症状や生命予後を改善させることが可能になっています。
 当院は、国立循環器病センターから湊谷教授が着任され肺血栓内膜摘除術・バルーン肺動脈形成術ともに施行可能となり、肺高血圧の重症度、血栓の形態や部位、合併する疾患や患者様の状態を丁寧に評価して、BPA, PEA, 薬物療法のどれが患者さんにとって適切かを専門的に評価して治療方針を決定しています。
 
薬物療法
◎可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬
リオシグアト(アデムパス)
 そのほか、肺高血圧で使用するエンドセリン受容体拮抗薬、PDE-5阻害薬、PG I2製剤といった薬剤を併用する事もあります。
 
血栓内膜摘除術(PEA)
 肺動脈中枢部に血栓を有する慢性血栓塞栓性肺高血圧症に対しては、超低体温循環停止下に肺動脈から器質化した血栓および内膜を摘除します。
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経皮的肺動脈形成術(balloon pulmonary angioplasty;BPA)
 慢性血栓塞栓性肺高血圧症の肺動脈血栓は器質化し肺動脈壁に固く付着しており血栓溶解療法は無効で、中枢型の器質化血栓には、手術による肺動脈血栓内膜摘除術が適応となります。しかし、非常に細い血管で狭窄・閉塞が起こる末梢型の血栓に対しては、肺動脈血栓内膜摘除術は行えず、血管拡張薬での内科的治療も期待されるような予後改善が得られていません、
 バルーン肺動脈形成術(BPA)は、器質化血栓により狭小化した肺動脈を、わずかでも拡張すれば肺動脈圧の低下が期待できるという発想のもと、開発されました。これまでもBPAにて平均肺動脈圧が低下し、運動耐用能が改善するっことが、多くの施設から報告されています。
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 当院では、酸素療法や薬物療法では充分に肺動脈圧が低下しない患者さんにたいして、積極的にバルーン肺動脈形成術BPAを施行しています。
 
 
文責 循環器内科 木下・田崎

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