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両心室ペーシング(心臓同期療法;CRT)について

 プールの中で多くの人が協調して泳ぎ、その美しさを競うシンクロナイズド・スイミングと言う競技がありますが、心臓が効率的に動くにはシンクロナイズド・スイミングのように心臓の筋肉全体が協調して働くことが必要です。
 心臓のメインポンプである心室は0.1秒以内にすみずみまで電気が流れて収縮するようになっています。しかし、心筋梗塞や拡張型心筋症などの病気によって心筋が傷害されると、心臓のポンプ機能が低下すると同時に、心室内の電気系統も各所で寸断され、心室興奮時間が長くなります。心室興奮時間が長くなると、最初に興奮・収縮した部位と最後に興奮・収縮した部位に時間差を生じ、心室の動きにねじれを生じるようになります。このような状態を、協調性・同期性(シンクロニー)を失った状態、すなわち非同期(ア・シンクロニー)といいます。
協調性・同期性
 心筋梗塞や拡張型心筋症などでは、心筋ダメージにより直接的に心臓のポンプ機能が低下しますが、心室内の電気系統が寸断されて心室興奮時間が長くなると、心臓の動きにねじれが生じ、心臓のポンプ機能はさらに低下してしまうわけです。具体的には、心室興奮時間が0.13秒以上になると、心室の動きのねじれが強くなって、心機能が低下するとされています。
 「両心室ペーシング」は、心臓のポンプ機能が低下し、心室興奮時間が0.13秒以上に延長した患者さんに対する新しい治療法です。日本では2004年4月に保険償還されましたが、当院では全国に先駆けて2003年8月からこの治療法に取り組んでいます。
 両心室ペーシングでは、右心室と左心室それぞれにリード線を挿入し、左右の心室に同時に電気を流します(下図)。こうすることで、心臓の動きが再びシンクロナイズド(再同期)されて一斉に協調して動くようになり、心臓のポンプ機能が改善します。両心室ペーシングの別名を心臓再同期療法(CRT)とも呼びます。
心臓の図
 現時点で両心室ペーシングの適応基準は以下の3項目を満たすことになっています。
  1. 薬物治療にもかかわらず、軽い労作で息切れ・呼吸困難などの心不全症状があること。
  2. 心室興奮時間が0.13秒以上であること。
  3. 心臓のポンプ機能を表す左室駆出率(EF)が35%以下(正常値は55-80%)であること。
 手術は基本的に局所麻酔で行います。徐脈に対する通常のペースメーカーの場合と同じように、まず鎖骨の下の皮膚を切開します。ついで鎖骨下静脈からリード線を挿入して心臓に固定します。最後にリード線とペースメーカー本体を接続して、皮下に作成したポケットに本体を納めて皮膚を縫合すれば終了です。
手術の様子
 リードを接続する本体ですが、ペーシング機能のみのペースメーカーを使用する場合と、致死的心室性不整脈に対する除細動(電気ショック)機能を併せ持った植え込み型除細動器を使用する場合があります(下写真)。
 両心室ペーシングの適応となる患者さんは、心筋梗塞や拡張型心筋症などで心臓のポンプ機能が低下していますので、致死的心室性不整脈による突然死のリスクがあります。このため、当院では原則として除細動機能を併せ持った両心室ペーシング機能付植え込み型除細動器をお勧めしています。
両心室ペースメーカーと両心室ペーシング機能付き植込み型除細動器
 写真下の症例は、重症心不全に対して両心室ペーシングが著効した症例です。胸部レントゲン写真で心胸比(心陰影の幅/胸郭の幅)が73%から59%にまで改善しています。
術前と術後
 このように両心室ペーシングは重症心不全に対する有効な治療法ですが、適応基準を満たす患者さんでも両心室ペーシングが無効のケースが約30%あることが知られています。
 また、両心室ペーシングは、心臓の動きのねじれを矯正するだけですので、心筋梗塞で壊死した心筋や、拡張型心筋症で変性した心筋を蘇らせる治療法ではありません。したがって、両心室ペーシングが有効な人でも、心臓のポンプ機能が正常になるわけではありません。

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