80歳男性I.Sさん
1.ご職業は何ですか?
2.心筋梗塞の発症日、既往歴はいつですか?
3.喫煙歴は?
担当医からのコメント
今回の心筋梗塞発症をきっかけに、禁煙されました。
喫煙者では心筋梗塞の再発の危険が非喫煙者に比べて3倍多いことがわかっています。
4.心筋梗塞の発作はいつ、何をしているときにおこりましたか?
5.その発作は具体的にはどのようなものでしたか?
担当医からのコメント
急性心筋梗塞では、痛みの程度や痛みの部位に個人差があります。必ずしも胸が痛くなるわけではありません。この患者さんのように背中が痛くなる場合もあれば、のどや奥歯の痛みを感じる患者さんもいます。
6.急性心筋梗塞を発症される前になにか予兆のようなものはありましたか?
担当医からのコメント
心筋梗塞を起こす前兆として、発作性の胸部痛や背部痛などの症状(狭心症)がみられる場合があります。前兆としての狭心症は、血管の壁に不安定なプラーク(コレステロールや白血球などの塊)があり、血栓(血の塊)ができかけていて、血流が乏しくなっているためにおこります(この状態を「不安定狭心症」と呼びます)。数分で治まるときは、一過性の血流不足であって心筋へのダメージは少なく、血流が再開すれば心筋に永久に障害がのこることはありません。ただし、症状が20~30分以上続くときは、心筋が壊死してしまい(心筋梗塞を起こしてしまい)、永久に心筋障害が残ります。それまでに狭心症がなかったのに狭心症が新たに起こってきた場合や、もともと狭心症を起こすことはあってもその痛みの程度がきつくなってきた場合、あるいは狭心症の頻度が増えてきた場合は心筋梗塞を起こす前兆のことがありますので、手遅れにならないうちに早めに病院を受診するようにしましょう。
7.病院を受診し、どのような検査をうけましたか?検査について医師からどのような説明をうけましたか?
8.病院ではどのような治療をうけましたか?治療について医師からどのような説明をうけましたか?
担当医からのコメント
この患者さんは循環器内科に入院され、現在心筋梗塞の急性期の治療として標準的に行われている「経皮的冠動脈形成術:PCI(percutaneous coronary intervention)」という治療をうけられました。PCIに関しましてはこちらを参照してください。
9.病院に入院中に、あるいは退院後に一番大変だったことはなんですか?それをどうやって解決してゆかれましたか?
担当医からのコメント
禁煙をすると基礎代謝量の変化や、口寂しさからの間食の摂取量が増加したりして、一般的には2~3kg太ることが多いです。禁煙する場合は食生活にはいっそう注意が必要です。
10.病院に入院して、あるいは退院後に、なにかよかったと思えることがありましたか?
担当医からのコメント
シナリオライターというご職業柄、1日2000~3000歩くらいしか歩かれていなかったようです。この患者さんは80歳と高齢ではありますが、膝や股関節などに問題がなければ、健康のために1日5000歩以上歩くことを指導しています。
11.心筋梗塞の病気を経験されて、生き方や人生観について変化がありましたか?
12.実際に心筋梗塞を発症されるまでに、ご自身が心筋梗塞を起こすかもしれないと思っていましたか?
担当医からのコメント
急性心筋梗塞は「急性」と言う名前の如く、急激に発症するものです。病気には、徐々に症状が出てきて悪化するものと、急激に発症するものの2種類がありますが、急性心筋梗塞は後者の代表例です。一旦発症すると症状は激烈ですが、発症する1時間前までは平常どおりされている場合が多いのです。急性心筋梗塞は血管の壁のプラークが破裂することによって発症しますが、このプラークは知らず知らずの間に形成されていきます。全く症状のない人でも動脈硬化を予防するために、日頃から食事や運動に注意が必要です。
13.食事や運動について、発症前とあとで変化がありましたか?現在食事や運動についてなにか工夫されていますか?
担当医からのコメント
一度心筋梗塞を起こされてもそれで「おしまい」ではありません。現在では経皮的冠動脈形成術を含む治療技術の進歩により、病院到着後は救命率が向上し、多くの患者さんが社会復帰も可能となりました。ただし、一度命をとり止めたとしても、過食や、運動不足を続けていればまた新たなプラークができて、心筋梗塞を再発してしまいます。10年間の再発率は50%とも報告されています。心筋梗塞の患者さんには、全員食事と運動について一般の健常人以上に注意する必要があります。具体的にどんな食事法や運動法があるのかについては、当科心臓リハビリテーション部門で個人個人に指導しています(こちらをご参照ください)。
14.社会に対して、患者様に対して、あるいは医師に対してなにかメッセージがありましたらお答え下さい。また、入院中あるいは現在うけられている医療について不足にお感じになる点や、なにか「こうしたほうが良い」とお考えになる点がありましたらお教えください。
担当医からのコメント
1950 年代までは絶対安静のみが心筋梗塞の治療でした。退院まで3ヶ月間を要したといわれています。この時代は二トロ以外は有効な内服薬もありませんでした。 1960年代になり経皮的冠動脈形成術が開発、臨床応用されるようになりましたが、カテーテルも現在のようにしなやかな素材でできているものではなく硬くて太いものであったため、治療がうまくできる症例は限られていました。今日のカテーテルおよびワイヤーやステントなどの技術革新は、患者さんの言葉どおり、めざましいものがあります。ただし、技術がどれだけ発展しても、やはり治療において最も大切なのは患者さん自身の体の回復力と、元気になろうという前向きな気持ちです。「病は気から」という言葉がありますが、心筋梗塞の場合も患者さんの治療に対する前向きな気持ちがなければ、治療はうまくいきません。経皮的冠動脈形成術ではつまった血管を再開通させることができますが、その後の服薬、食事療法、運動療法は、心筋梗塞による心機能の悪化を予防するため、あるいは心筋梗塞の再発を予防するために非常に重要なのです。服薬、食事療法、運動療法といった治療は、患者さん本人が大切であると認識して取り組んでいく必要があり、医師や看護師、あるいは家族など、周りの人間ができることは患者さんをサポートすることだけです。医学が今日のように発達しても、医師がどれほど医学を深めても、あくまで治療の中心は患者さん自身の意思・意欲にあることを、いつも感じています。