73歳男性I.Sさん
1.ご職業は何ですか?
2.心筋梗塞の発症日、既往歴はいつですか?
1970年頃より高血圧症の治療のため通院
- 1975年:胆石の除去手術のため入院
- 1977年:虫垂の除去手術のため入院
- 2003年より:睡眠時無呼吸症候群の治療に通院
- 2005年:腎臓癌の除去手術のため入院
担当医からのコメント
I.Sさんは多様な病歴をお持ちですが、この中で今回の心筋梗塞と無関係でないものがあります。高血圧と、睡眠時無呼吸症候群です。
睡眠時無呼吸症候群とは
高血圧が心臓や動脈硬化の原因の一つであることは古くから言われており、今や常識ですが、睡眠時無呼吸症候群が心臓や動脈硬化の原因であることについてはまだ知らない人も多いかと思います。睡眠時無呼吸症候群とは、その名の通り、睡眠中に息が止まってしまう時間が多い人のことを言います。息が止まっている時間は長くても2分程度までなので窒息死にまでは至りませんが、体にいいわけはありません。睡眠時無呼吸症候群の2つのパターン:閉塞性無呼吸と中枢性無呼吸
そもそも、寝ている間にも息をしている、呼吸をしているというのは、意識して行うことではありません。呼吸中枢という、脳の原始的な部分が息をするという指令をだすことによって、呼吸が調整されているのです。また、眠ると舌を支える筋肉がゆるみ、気管(空気の通り道)をふさいでしまいます。また、空気の通り道である気道が開いていることが必要条件となります。もともと肥満などがあり、喉が狭い人では簡単に軌道の閉塞を起こし、閉塞性無呼吸を起こします。閉塞性無呼吸は高血圧、動脈硬化、および心筋梗塞の原因となることが明らかとなりました。睡眠時間はとっているはずなのに日中に眠気が強い、肥満がありいびきをかくことが多い、などがあります。こうした睡眠時無呼吸の可能性が疑われる場合は、放置せず、睡眠時無呼吸検査を受けるようにしましょう。睡眠時無呼吸検査は、当院をはじめ睡眠時無呼吸外来を標榜する病院やクリニックにて受けることが可能です。一方、心臓の働きの弱っていることによって、呼吸中枢のしくみにも異常を来し、息をするという指令が正常に働かなくなることによって無呼吸が生じることがあります。これを、中枢性無呼吸といいます。中枢性無呼吸では覚醒中にも呼吸の停止が認められる場合があります。心臓の働きが弱っている人で中枢性無呼吸が生じる正確な頻度は不明ですが、およそ3割程度ではないかと推定されており、当科に入院された患者さんには睡眠時無呼吸の検査をなるべく受けていただくようにしています。睡眠時無呼吸の検査と治療
詳細については、当院呼吸器内科のホームページをご確認ください。
3.喫煙歴は?
担当医からのコメント
タバコは血管の細胞をはじめ、全身の細胞を確実に傷害してゆきます。動脈硬化や癌を引き起こします。また、脳の仕組みにも影響を来し、タバコを吸う人は煙草を吸っていないとイライラしやすい、気持ちが高ぶりやすいなどの精神面の変化も現れます。また、タバコを吸う本人だけでなく、回りの人にも害を与えます。体に悪いことは分かっていても、やめられない人が多いのですが、これはタバコの中毒(ニコチン中毒)になっていて、脳の働きが変わってしまっているからです。こうなると、もう、病気と言わざるを得ません。喫煙は、病気なのです。本人はやめよう、やめたい、と思っていてもなかなかやめるのは難しい。このため、最近では禁煙補助のお薬が保険適応として認可され、禁煙外来を標榜する病院やクリニックにて処方することが可能となりました。 I.Sさんは、強い意志により独力で禁煙されたようですね。
4.心筋梗塞の発作はいつ、何をしているときにおこりましたか?
担当医からのコメント
狭心症の典型的な胸部症状は、階段を上るときなどの強い労作で生じるもの安静時に生じるものです。しかしながら、この患者さんのように心筋梗塞寸前の非常に重篤な場合には、安静にしていても症状がでます。ちなみに、それほど重症でなくても安静時に胸部症状がでやすい、異型狭心症という名で呼ばれる狭心症もあります。異型狭心症では、血管が詰まるのではなく、痙攣して縮むことで一時的な血流障害が起き、胸部症状がでます。
5.その発作は具体的にはどのようなものでしたか?
担当医からのコメント
おそらく、血管の中で血栓(血の固まり)ができて、血管が詰まりかけたり、またちょろちょろ流れたりしていたのではないかと想像されます。
6.急性心筋梗塞を発症される前になにか予兆のようなものはありましたか?
担当医からのコメント
この症状が心臓と関係があったかどうかは、今となっては知るすべはありませんが、あんまり関係なさそうな印象です。
7.病院を受診し、どのような検査をうけましたか?検査について医師からどのような説明をうけましたか?
担当医からのコメント
心停止は、ほっておくと数分間で脳死、全身臓器障害を来し、死に至る状態です。心停止を起こしたら1秒でも早く心肺蘇生(心臓マッサージ+人工呼吸+除細動)を行う必要があります。このため、自宅や道路などで心停止を来した場合は、後遺症なく生還できる確率は非常に低いのが現状です。I.Sさんは自宅ではなく、診察室で心停止を来したことによって、適切な処置を速やかに受けることができたのです。
8.病院ではどのような治療をうけましたか?治療について医師からどのような説明をうけましたか?
9.病院に入院中に、あるいは退院後に一番大変だったことはなんですか?それをどうやって解決してゆかれましたか?
担当医からのコメント
I.S さんは急性心筋梗塞という大きな病気をされ、一時は心停止まで起こされたわけです。退院までは回復してゆくという喜びにより、病気に対する不安は表には出てこなかったということですが、その後は徐々に精神的に不安定になっていかれたようです。I.Sさんのように、急性心筋梗塞を起こした人では、その後2人に1人が精神的に不安定な状態(うつ状態、パニック症候群、不眠症など)に陥るということがわかっており、はっきりした精神症状がないうちから、うつ病治療薬などを飲んでもらった方が良いのではないかとも言われています。精神的に不安定な状態は、時間の経過とともに少しずつ改善してゆくものですが、症状がきつい場合にはI.Sさんのように、抗不安薬であるデパスなどのお薬を利用してもらうことで、症状の悪化を食い止めるようにするのがよいでしょう。
10.病院に入院して、あるいは退院後に、なにかよかったと思えることがありましたか?
京大病院に着きますと医師、看護師、レントゲン技師と多数のスタッフが待ち受けテキパキと診察を始め疑いもなく急性心筋梗塞だ、すぐに治療の必要があると説明を受けました。早速手術室に移され夜明けまでかかり梗塞部分3箇所をカテーテルで手当てを受け一命をとりとめました。京大病院に転院させた夜勤の医師は20歳代の若者でした。深夜に京大病院で待ち受け手術を施しその主治医を務め再度カテーテルでの治療で合計5箇所の閉塞部分を治療してくれた医師も30歳代の若者です。73歳にして若い医師の果敢な実行力を目の当たりにして、こんなにも人間がたのもしいものかということを知りました。病院には患者のID 番号と見知らぬ老人を受け入れ治療したと記録されているはずです。実際は義務の領域を超える使命感を正確な判断に繋ぎ実行に移す努力惜しまなかった医師のお陰で間違いなく命を救われたのです。稀にみる恩恵を授けた老人が感謝の言葉を捧げます。
ありがとうございました。
担当医からのコメント
当日の病院のカルテには、日時と検査結果、治療内容などが、わかりやすく記録されています。ただそのカルテからは読み取れない、一生の中の一大イベントを経験された患者さんの感情の変化や、重大な責任を負う医療者の精一杯の努力が隠れているのですね。
11.心筋梗塞の病気を経験されて、生き方や人生観について変化がありましたか?
12.実際に心筋梗塞を発症されるまでに、ご自身が心筋梗塞を起こすかもしれないと思っていましたか?
13.食事や運動について、発症前とあとで変化がありましたか?現在食事や運動についてなにか工夫されていますか?
担当医からのコメント
I.Sさんの許可を得て、食事日記を掲載させていただきます(写真はこちら)。I.Sさんはとっても几帳面な方で、毎日のご家庭でのお食事を写真にとっておられました。食事療法に取り組もうとする患者さんでは、毎日の食事内容をノートに記録することや、このように写真にとることで、ご自分の食事を見直すことが大切です。
14.社会に対して、患者様に対して、あるいは医師に対してなにかメッセージがありましたらお答え下さい。また、入院中あるいは現在うけられている医療について不足にお感じになる点や、なにか「こうしたほうが良い」とお考えになる点がありましたらお教えください。
担当医からのコメント
またいつか、お気持ちがまとまったらメッセージを書いてくださるとのことです。I.Sさんがゆっくりと回復に向かわれるよう、お手伝いしてゆきたいと思います。