Cincinnati & Stanford.3

マイコース・プログラム 海外研修レポート 京都大学医学部医学科4回生 田伏 真子

背景、目的

 今回マイコースプログラムの一環として、京都大学循環器内科の尾野先生の紹介により、Cincinnati Children's Hospital Dr. Jeffery Molkentin Lab の桑原先生、Stanford University Dr. J.C Wu Labの西賀先生のお二方のもとでそれぞれ1週間ずつ研修をさせて頂きました。(Cincinnati Children's Hospitalは、全米1位になった小児病院で、Molecular Cardiovascular Biology Molkentin Labは心肥大~心不全に至る分子機序をいち早く解明したラボです。Stanford University School of Medicine, Cardiovascular InstituteJoseph Wu lab は、iPS細胞を用いた疾患の分子機序の解明を中心としています。) 今回尾野先生に連絡させて頂いた理由としては、元々学生のうちに海外研修や見学をしてみたいと思っていたこと、また循環器内科や小児循環器に興味を抱いていたことが挙げられます。

 帰国後については、京都大学循環器内科にて堀江先生に基礎研究の実験手技を学ばせて頂きました。

内容

①出国前

・京都大学循環器内科にて、尾野先生のご指導の下、見学に行く予定の双方のラボの論文抄読会を行いました。実際にどのようなことをしているのか大まかにですが把握する良い機会となりました。

Cincinnati Children's

Heart Institute 学会

 午前中は画面を用いたプレゼンテーション形式で、基本的に分子生物学的な観点から心臓を捉えており、心臓の繊維化関連の話題が多かったように感じました。午後は掲示板のようなスペースに各々がポスターを貼って自分のポスターの前に立ち集まった人に説明するという形式でした。ポスターは構成も内容言葉遣いもパワーポイントのようなものではなく、論文を少しカラフルにしたようなもので、かなり理解が難しかったです。最後にどのプレゼンテーション、ポスターが良かったかについて表彰式もありました。朝ご飯、coffee break、昼ご飯がバイキング形式で、さらに午後にはアルコールも提供されたことに1番驚きました。

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・ラボミーティング

 ラボミーティングは週に1度、ラボメンバーが集まり、その日の発表担当者1人が自分の研究進捗状況、今後の方針などをプレゼンテーションし、それについて教授やメンバーが質問やアドバイスをするといったものでした。

・桑原先生

 先生は県立尼崎医療センターで5年間研修医をされてから京大病院に戻り臨床医かつ研究医かつ助教を15年程度勤めた後、アメリカの研究室に幾つか応募出して、今のラボに6年間所属されているそうです。

 心臓をどのような状況に置いた時にタンパク質の発現量がどのように変化するのか見ることを目的として、まずマウスを頸椎脱臼で死亡させてから腹部開口、心臓を取り出して右左心房切り取って心室のみの重量を測り、その後心臓をすりつぶす等の処理を加えた上で、遠心分離し取り出したタンパク質をWBしていました。

 また、心臓に遺伝子導入をさせるため、ウイルスをマウスの目に注射するのを見せて頂きました。皮下注射などでは影響力が下がってしまうため心臓に強い影響を与えることができないが、目の裏には血管網があるためそこに直接打つことで、心臓に効きやすくしているそうです。

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・マウスsurgery ( MI, TAC )

 実際に2種類のマウスsurgeryを見学させて頂きました。MI手術とは、胸を切開して左冠動脈を結紮し、心筋梗塞、心筋壊死を引き起こすことにより心不全を促すもので、TAC手術とは、胸を胸骨の横で切開し大動脈に針を噛ませた上で結紮した後針を抜くことで、針の細さに大動脈を縮窄させ人工的に心肥大を促すものです。切開部はゲルとステープラーまたは縫合で接合していました。

 手術室の雰囲気が想像していたよりもはるかにフランクで、ラジオ流して歌いながら作業をされている方もいて驚きました。マウスに麻酔をかける人、毛を剃る人、手術する人、それぞれのポジションが確立した上で体系が出来上がっていてすごく効率化されているところにアメリカらしさを感じました。

MDPhDコースの学生との対話

 アメリカではまず高校を卒業した後大学に4年間通い、その後2年程度研究室などで経験や実績を詰んでから、医学部に受験し4年間医学部に通ってからMDを取得し、やっと医者として働き始めるというのが一般的です。一方でMDPhDコースというものもあり、そちらだと大学4年、医学部2年、基礎研究4年、医学部2年でMDだけでなくPhDの資格も取れるそうです。

・高城先生

 桑原先生からの紹介で臨床医として働かれている高城先生とお話しする機会を頂きました。先生は大学在学中にUSMLE1.2、卒業後研修中に3を受験、合格してMDを取得された後に渡米され、現地で小児循環器のfellowとして勤務されています。アメリカの病院に就職する際、インタビュー期間を2ヶ月程度とり、メンターの家に滞在しながらいくつかの病院に申請を出していたそうです。現在は病院勤務と並行して、シンシナティ大学に2年間所属し生理学を学ばれているらしく、学費については病院が全て出してくれているそうです。

 高城先生と病院を見学したのですが、完全に科ごとに分離していること、各科の診療を受けるには事前に何ヶ月も前から予約がいること、予約なしで診療を受けたい外来の患者は4-6時間待ちで重症度と順番に従って個室に入りその後先生が個室を回ることなどを教えて頂きました。また、循環器のICU病棟を見せてもらったところ、全て個室に分かれており、まるでホテルの一室のように設備が揃っていて、廊下の中心のブースで患者全員の心拍などをモニターで管理していて、驚きました。

Stanford

・西賀先生

 先生は天理病院で5年間研修医をされてから、京大病院に戻り臨床医かつ研究医として京大病院に勤めた後、今のラボに5-6年間所属されているそうです。

 このラボのメインであるiPS細胞については、それを分化させそのまま移植して治療に使うというよりも、遺伝疾患の患者から細胞を採ってきて病状を再現し病因を解明するのが主な目的だそうです。まず、患者から研究目的で採血しPBMC末梢血単核球からiPS細胞を作成します。センダイウイルスベクター利用して導入すると2-3週間で胎児くらいの状態にまで発育するが、それ以降は発育せず数週間しか発現が残らないが、実験で使うものに対してはレンチウイルスHIVを無毒化したものを利用しランダムにゲノムの配列に挿入することで発現し続けさせることができます。マイコプラズマの感染には注意が必要で、入っても細胞を殺すことは少ないが、性質を少し変えたり分化しにくくしたりするため、気づきにくく、ばらつきが出やすくなってしまう恐れがあります。もし他の細菌が入った場合は細胞を殺してしまうのですぐに分かるそうです。遺伝子を挿入する用の細胞として、HEK腎癌細胞、HELA子宮頚癌細胞は、条件が多少適当でも失敗しづらいためによく使われます。心疾患のうち大人になってから発症するような疾患は再現しづらいそうで、より環境を似せるために3次元で細胞を飼ったり、他の種類の細胞も混ぜて発育させたりすることもあるそうです。

 私が実際に見たものとしては8×12のマスのプレートに全部条件を変えた上で発育させ、心筋細胞に分化するかどうかをみるというもので、心筋細胞で機能するプロモーター領域の後ろに蛍光タンパク質の遺伝子を挿入することで、心筋細胞に分化していたらその蛍光タンパクが翻訳され顕微鏡で見た時に緑に光るのですが、8×12マスを一つずつ顕微鏡で見るのは手間がかかるため、まとめて、しかも数値的に解析してくれるコンピュータがありました。

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・ラボミーティング

こちらもCincinnatiと同じく週に1度同じような形式内容で行われていましたが、ラボの規模がこちらの方が大きかったため、この日は発表担当者が3人いて2時間強続いたのが印象的でした。

・セミナー

スタンフォードでもいくつかセミナーに参加しましたが、全て対面形式で行われていました。内容としては、"ヒト心筋細胞の再生を強化する遺伝子編集""multiomicsという生体内の機能を担うさまざまな物質、具体的にはDNARNA・たんぱく質・代謝産物などについての総合的・網羅的な研究とMoTrPACという動物ヒトにおける各組織での運動効果の解析"などがありました。ほとんどのセミナーでお弁当や軽食、コーヒーなどのケータリングが用意されており、参加者がそれらを食べながら聞いている姿がとても新鮮でした。

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・川名先生 

 西賀先生からスタンフォード病院の循環器内科で臨床医をされている川名先生をご紹介頂きました。まず、臨床カンファレンスの見学をさせて頂いたのですが、症例のMRI画像などと先生方が話されている内容をまとめて理解することは非常に難しかったです。ただ、雰囲気がすごく和やかで出入りも自由といった感じで日本との違いに驚きました。病院内見学について、まず外来は、初診は1時間、再診は30分程度で、看護師による電話での無償対応やビデオ問診などもあるそうです。病棟はやはりシンシナティと同じくここも全個室で、しかも入り口は透明ではなかったので不整脈などを見逃してしまう可能性も実際あるそうです。それぐらい個人のプライバシーが尊重されていることに驚きました。また病床数が少ない分、患者の回転率はすごく高いそうです。

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④帰国後

・京都大学循環器内科にて、堀江先生のご指導の下、マウスの尻尾からのゲノム抽出、PCRなど基礎研究の基盤となるような実験を経験させて頂きました。

2)

研究室、ビザの申し込み

・研究室については、まず3回生の1月にマイコース海外研修申請があったため、11月頃に循環器内科の尾野先生にマイコース期間にて循環器内科に所属したいこと、またその期間中に海外研修を行いたいことをお伝えしたところ、快く承諾して下さいました。そして4回生の5月に尾野先生が研修先としていくつか候補を出してくださり、その中から今回の2つを選ばせて頂きましま。

・ビザについては、今回アメリカ滞在は1ヶ月未満と短いものであったため、ビザを取得する必要はなく、代わりにESTAと呼ばれる渡航認証システムに登録をしました。そちらは渡航直前でも取れるようでした。

宿泊

 Cincinnatiについては、桑原先生からお薦めして頂いた病院近くの"Graduate Cincinnati"といつホテルに泊まりました。ホテルから病院までは徒歩10分くらいだったので歩いて通いました。1階にカフェがついていたので、そちらで朝ごはんを食べることが多かったです。

 Stanfordについては、去年Stanfordに研修に行かれた先輩が泊まられたのと同じホテル"country inn motel"に泊まりました。大学からは少し離れた場所だったので、バスかuberで移動していました。

 どちらも一緒にマイコースに行った同級生と21部屋で予約したので、その分節約できたかと思います。

週末

 シンシナティ滞在中はダウンタウン、over the Rhineなど、スタンフォード滞在中はヨセミテ国立公園、GoogleAppleNASAの本社、サンフランシスコ、ナパバレーワイナリーなどの観光をしました。また、メジャーリーグやアメフト観戦もすることができました。ヨセミテ国立公園とナパバレーについては事前にツアーを予約してそれに参加しました。どちらもかなり遠く自分たちで移動するのは難しかったのでツアーを予約したのですが、それだけでなくガイドさんのお話がとても面白くためになったり、他のツアー参加者の方と仲良くなれたりと、ツアーで観光して本当に良かったです。

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最後に

 海外のラボや病院施設を見学したり様々な方からお話を聞いたりすることで、現地の医療の現状について直接的に知ることが出来、また医療に関してだけでなく文化や考え方などの違いについても実際に肌で感じることが出来たため、今回の研修は私にとって非常に有意義で刺激的なものとなりました。また、海外で働かれている研究医や臨床医の皆さんのお話を聞き、自分の医学に対するモチベーションが向上するきっかけとなりました。

 このような貴重な機会を頂き、留学に関して面倒を見て下さった尾野先生、桑原先生、西賀先生、高城先生、川名先生、堀江先生、関わってくださった全ての方々に心よりお礼申し上げます。

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