Detroit

デトロイト研修レポート 京都大学医学部医学科4回生 木村 貞仁

(1)実習概要
当実習は、三回生の一月に行われるS1の講義で紹介して頂いた。現在アメリカ合衆国で循環器内科医として働いておられる山崎博先生の下で、一週間臨床実習をさせて頂く、というものである。山崎先生は、京都大学医学部卒業後すぐにアメリカ合衆国に渡り、内科のレジデントを3年、循環器内科のフェローを3年、カテーテルのフェローを2年され、現在はデトロイト郊外で開業医をされている。
山崎先生は、総合病院も含めて複数の病院を掛け持ちされていて、今回の実習では、St.John病院、またその姉妹病院であるSt. John Macomb病院, Beaumont Grosse Pointe病院、先生の診療所(Eastside Cardiovascular Medicine, P.C)で実習を行った。前者3つは総合病院で、後者は山崎先生が複数の医師と共に開業されている循環器内科の外来診療所(クリニック)である。

(2)実習内容
実習中の大まかな一日の流れは、朝6時に起床、6時半に朝食を頂き、7時頃〜夕方5時まで実習、実習が終わると、夕食を頂き、先生にレクチャーをして頂くというものであった。実習では、主に先生について診察を見学し、患者さんとお話させて頂いたり、経大動脈弁置換術(TAVI)などのカテーテル治療を見学させて頂いたり、本当に充実した5日間であった。

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(St.John病院)

① 24日月曜日
初日は、先生の診療所で一日中実習をさせて頂いた。この診療所は山崎先生一人で開業されたのではなく、他の複数(8人)の循環器内科の医師と共に、開業されたとのことだった。一日中先生の診察についてまわり、患者さんの心電図を頂き、解読し、先生から逐一フィードバックを頂いた。アメリカでは肥満が社会問題になっていたるため、循環器系の疾患に糖尿病を合併されている患者さんばかりが通院しているという印象だったが、そういった患者さんだけではなく、末梢血管疾患(ASOなど)や呼吸器系の疾患など訪れる患者さんの病気は多種多様であった。また、患者さんの中には薬を買う余裕がないと言っておられる方がおられ、日本ほど保険制度が充実していない様子が伺えた。先生は患者さんの病状や、経済状況などを考慮して、治療方針や薬の処方などを適切に判断し、患者さんにアドバイスをされていた。
診療所には、ワルファリンを継続的に服用されている患者さんが多くいらっしゃっていた。そういった患者さんにはINR(International Normalized Ratio)を診察前に簡単な血液検査で測定してもらっていたのも、効率の良いシステムだと感じた。ワルファリン投与患者では、INRを2~3の間に保つのが理想とされていて、INRがその範囲内で収まっていれば、診察時間が本当に短く済んでいたし、収まっていなければワルファリンの服用量を増やしたり、減らしたりしておられた。ほとんどの患者さんのINRは正常範囲内に収まっていて、適切なワルファリンの服用量を指定されていると感じた。

② 25日火曜日
二日目は、先生が働いておられる計3つの総合病院で実習をさせて頂いた。

a) St.John病院でのTAVI
大動脈弁狭窄症(AS)は、収縮期に左心室から大動脈への駆出障害をきたし、心不全の症状、狭心症、失神などの症状が生じると、平均寿命がそれぞれ2年、3年、5年と治療が必要になる。従来のASの治療方針は基本的には外科的に大動脈弁置換術(SAVR)を行うというものであったが、最近ではカテーテルによる経大動脈弁置換術(TAVI)が脚光を浴びつつある。大腿動脈からカテーテルで、大動脈弁を置換するというものである。St.John病院でもTAVIは二週間に一回位の頻度で行っているということだったが、この日はたまたま一日で二件も見学することができ、幸運であった。機械弁では血栓を生じやすく、永久的に抗凝固療法を行わなければいけないため、高齢者には生体弁を使うのが一般的だが、TAVIで比較的簡単で非侵襲的に弁置換が可能になったため、若年齢者でも生体弁を使うケースが増えてきているとの事であった。

b) St. John Macomb病院でのカテーテル検査、Beaumont Grosse病院での回診
午後は先生のカテーテル検査を見学させて頂き、冠動脈造影の画像の見方を指導して頂いた。カテーテル検査の結果は先生が口頭でボイスレコーダーに記録し、その録音を別の秘書さんが紙面に書き起こすという流れになっていて、医師の負担をなるべく減らそうとする試みがなされていると感じた。

③ 26日水曜日
三日目は、St.John病院で一日中実習をさせて頂いた。
午前は、カテーテル治療を二件、見学させて頂いた。一件目は、腹痛で来院された患者さんのSMA(上腸管膜動脈)閉塞の治療で、腹部大動脈からSMAにカテーテルを入れやすくするために、大腿動脈ではなく、橈骨動脈経由でカテーテルを入れ、逐一エコーで内径を確認しておられた。二件目は、左冠状動脈前下行枝のステント再狭窄をバルーンで膨らませるというものであった。
午後の病棟回診は、循環器内科の疾患にとどまらず、心臓外科の領域で、外科的に弁置換術を行った患者さんの術後の様子を見に行ったりされていた。他の医師が都合で回診できないときは、回診が多くまわってくることもあるようで、医師個人個人の都合に合わせたシステムが確立されていると感じた。他にも、PFOで奇異塞栓症が起こった症例など様々な症例を体験させて頂いた。

④ 27日木曜日、28日金曜日
四日目、五日目は、朝はSt.John病院でカンファレンスの後、回診を行い、午後は先生の診療所で診察という流れであった。
朝のカンファレンスは症例の紹介のみにとどまらず、新しいタイプのカテーテルを業者さんが紹介に来られていて、医師達がそのカテーテルの使い方を様々な観点から吟味されていた。回診中には、様々な医師に話しかけて頂き、新しいタイプのICDの紹介をして頂いたりもした。従来のICDは、ICD本体からのワイヤーが上大静脈を介して右心室内に留置するものであったが、現在は、心房、心室内には何も留置せずにワイヤーを皮下に埋め込む形式で、従来よりもコンパクトなICDが開発されているとのことであった。

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午後の流れは一日目と同様であった。五日目にはポリオの患者さんが来られていた。ポリオはウイルスによる感染症であり、脊髄前角細胞が障害されるため、感覚障害は出ないが、四肢の弛緩性麻痺を生じる病気であるが、患者さん自身が自分の病気が起こる機序を運動系、感覚系の神経回路を踏まえて、非常に論理的に説明されていた。アメリカの患者さんは総じて自ら抱えている疾患や治療法について莫大な知識を持ち、医師に積極的に質問をされている方が、日本と比較して多いように感じた。

実習が早く終わった日や休日には、先生がデトロイトの中心部やフォード博物館に連れて行って下さったり、またバーベキューを開いたりして下さった。また、先生のご自宅は湖のほとりの閑静な住宅街にあり、治安の面でも全く問題は感じなかった。

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(先生のご自宅にて)

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(デトロイト市街観光)

(3)考察
今回は、アメリカ合衆国で循環器内科の実習をさせて頂いた。循環器内科について、またアメリカ合衆国の医療について其れ其れ以下考察する。

① 循環器内科について
循環器内科で扱える疾患の範疇はカテーテルの技術により、非常に広くなりつつあると感じた。三日目のSMAの症例などは、腹痛という症状からみても消化器の範疇だと思ったが、実際は血管の閉塞に起因するものなので、カテーテルでの治療が大いに可能である。TAVIなどの新しい技術も生まれつつあるので、今後のカテーテルの進歩に期待したい。

② アメリカ合衆国の医療について

A)雇用体系について
アメリカの開業医は、日本の開業医と様々な点で異なっていると感じた。
まず、日本の開業医は一人で開業する事が多いが、アメリカでは仲間複数人を集めて一緒に共同で開業するケースもしばしば見られるようである。山崎先生も他8人の医師と共に循環器内科の個人病院を開業されていて、誰か一人都合が悪くなり働けなくなったとしても崩れないシステムになっていると感じた。また開業医は通常複数の総合病院と契約を結んでいて、一日の勤務時間内に複数の病院で仕事ができる。開業医でも、総合病院で勤務し、多くの医師とコミュニケーションを取る中で、常に新しい技術や情報に容易に触れられる事は一つの魅力だと感じた。
開業医と総合病院の関係にも日本と違う点が見られた。日本の開業医は、例えば患者さんの入院が必要と判断すれば、総合病院に入院の紹介はするが、それ以後その患者さんの面倒を見るということはない。アメリカでは、開業医と総合病院の繋がりが日本と比較して強いのが特徴である。前述のように、開業医は複数の総合病院とも契約を結んでいるので、開業医外来で入院が必要となった場合には、自分が勤務している総合病院に送り、入院後も自分、あるいは自分の仲間がその患者さんの面倒を見てあげられるようになっている。担当医が目まぐるしく変わることがないので、患者さんの心理的負担も大きく減らすことができる。医師にとっても、元から知っている患者さんの方が治療しやすい。このような円滑な開業医のシステムが出来上がっている点が、流石開業医社会だと感じた。

B)保険制度について
アメリカでは国民皆保険制度は無く、低所得者、透析、AIDSなどの患者さん、また65歳以上の高齢者の患者さんは別として、国民は民間保険に自ら加入する。民間保険に加入する余裕が無いために、民間保険に加入できず、治療費を支払えない患者さんも少なくはない。また、民間保険に加入していても、ジェネリックではない薬に対しては保険から支払われない場合もあるそうである。急患の患者さんが運ばれて来た時は、治療費が払えないという理由で医師は治療を拒んではいけないとのことであったが、アメリカのような格差社会で、全ての国民が満足な医療を受けられるような保険制度を築き上げるのはなかなか困難な事なのかもしれない。

C)アメリカの学生が医師になるまで、医療スタッフについて
アメリカには、日本のように大学に医学部というのは存在せず、大学を4年間卒業してから、medical schoolに4年通い始めて医師(M.D)の称号を得ることができる。それから、レジデントを3年、フェローを3年やって始めて一人前に専門の科で働けるというシステムになっている。一人前に働けるようになるのが、日本に比べて少し遅いような気もするが、その分アメリカのレジデント、フェローの教育カリキュラムは日本に比べてしっかりしていて、自分の腕を時間をかけてじっくり磨き上げて行く場としてはとても良い環境だと感じた。
あと、アメリカの医療スタッフにPhysican Assistant(PA)またはAdvanced Practice Nurse (APN)という称号の方がいらっしゃったのが、興味深かった。医師の助手として、医師と協力して患者さんの面倒を見る職業であるが、医師がいないような場所では、患者さんの診察、診断なども出来るとのことであった。日本以上に、様々な種類の医療スタッフの方がいらっしゃるのも一つの特徴だと感じた。

(4)最後に
今回の実習では、まだポリクリが始まっていない段階から、このような臨床実習を体験させて頂いたことは、非常に良い経験になった。座学で得られる知識を蓄積することも勿論重要であるが、患者さんや医療スタッフとのコミュニケーションの面でも、身につけなければいけないことが多くあると痛感した。
日本とアメリカでは、医療技術の面で相違点が見られるかもしれないが、それ以上に職場の雰囲気の違いを感じた。医療スタッフと患者さん、また医療スタッフ同士でも、お互いに壁を作らず、積極的にコミュニケーションをとろうとしていたことは、診察や治療の流れを円滑にしていると感じた。その他、日本とアメリカの医療を様々な観点から考察できたのも、大きな収穫であった。
このような素晴らしい実習を提供して下さった山崎博先生、また当実習を紹介して下さった循環器内科の尾野先生、中川先生、また現地でお世話になったスタッフの皆様に、感謝の意を表します。

デトロイト研修レポート 京都大学医学部医学科4回生 鈴木 優太

【背景】
循環器S1の授業にて、3年生の1-2月頃、天理よろづ相談所の中川先生先生がこのプログラムについて学年の全体に教えて下さいました。10年以上続くプログラムであり、毎年京大医学科の4年生が夏期休暇中に、アメリカで長い間臨床をされている先生が勤務されている病院に見学にいく、というものでした。今までの私の大学生活は部活動とアルバイトだけと言っても過言ではないほどのものでした。しかし少し真剣に将来のことも考え始めた折、このような研修があることを知り、ぜひとも参加したいと感じました。当然競争率は高く、十数名の中からあみだくじという、まさに「運」のみで参加出来ることになりました。その時の胸の高鳴りは今も忘れません。

【目的】 
循環器内科、特にカテーテルによる治療を専門とされている山崎先生の元で、アメリカの病院で専門医として働くことについての理解を深める。循環器内科の臨床における基礎的な知識を学ぶ。

【研修内容】 
まず土曜日に到着した後、歓迎会をしていただきました。豪華なバーベキューをごちそうになりました。翌日曜日は時差ボケもあり少し寝坊して、一日かけてFord博物館や付近を案内していただきました。月〜金曜日の実際の研修では、一週間、山崎先生の循環器内科医としての業務を見学させていただくことを中心に、合間に循環器のエッセンスを教えていただく形で進みました。その中で、現地の医師の方々ともお話しする機会をもうけてくださり、短い期間ではありましたが非常に英語の勉強にもなりました。仕事が少し早く終わった日には、デトロイト市内を案内していただきました。お忙しいはずなのに、本当に手厚くもてなしていただきました。
教えていただいたことを1つ1つ挙げていくときりがありませんが、冠動脈の造影像の読み方や心電図の読み方、心臓弁膜症の分類など、非常に多くのことを実際の症例と絡めて教えてくださりました。また、カテ室にも実際に入れていただき、日本での実習で初めてカテ室に入るより先にアメリカのカテ室に入るという、何とも希有な体験をさせていただきました。さらに、TAVIという比較的新しい治療を実際に行っているところを見学させていただきました。回診にも一緒に付かせていただき、患者さんとお話しする機会をもうけていただきました。
また、宿泊は先生のお宅で、さらに晩ご飯は全て奥様の手作りというまさに至れり尽くせりの待遇でした。本当にすべてが、先生と奥様のお人柄としか言いようがありません。

【謝辞】
今回参加させていただいたのは医学科4回生の3名でした。中でも特に私は勉強不足な所もあり先生をあきれさせてしまうような場面も多々あったように思いますが、それでも懇切丁寧に説明してくださり、循環器に関する理解が深まりました。山崎先生、本当にありがとうございました。
また、このような機会を与えていただいた中川先生、尾野先生にもお礼申し上げます。

【後輩たちへ】
普通、初めて臨床に触れる機会は日本でポリクリが始まる時だと思います。しかし、将来臨床で働くことを考えている、さらに言えばアメリカで臨床をすることを考えているのであれば、ある程度早い段階で実際の現場を見ておくことには非常に大きな価値があると思います。私が行ってみて感じたのは、日本より女医さんが多いということと、勤務時間が日本と比べ早く始まり早く終わるということです。こういったことは現地に行ってみないと実感が出来ません。ですからアメリカで働くことを考えている後輩の方々には、ぜひ参加して欲しいと思います。最後に写真を載せておきます。

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Ford博物館にて

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デトロイト市、ベルアイル島にて

デトロイト研修レポート 京都大学医学部医学科4回生 山本 昌平

<背景>
この研修は3回生の冬に行われた循環器科学S1の講義にて、中川先生と尾野先生が紹介してくださり、知ることができました。この研修はデトロイトで循環器内科医として活躍されている山崎博先生のもとで8月22日から29日の1週間研修させていただくというものでした。
自分は以前からアメリカで働くこと、特に臨床医として働くということがどのようなものか実際に見てみたいと考えていたため、これ以上の機会はないと思い、参加を希望しました。
山崎先生は現在、開業されているオフィスのほか、主にサントジョン病院等の病院で働いています。今回は自分のほか2人の同級生合わせて3人で先生の診療所での外来やサントジョン病院等での回診、カテーテルの見学などをさせていただきました。


<研修まで>
今回の研修を行うに当たって、7月に京都大学付属病院で1週間の循環器内科の研修を受けさせていただきました。内容はポリクリに参加するという形で講義を受けたり、エコーやカテーテルの見学、症例に関するプレゼンを行ったりしました。この研修は大変勉強になり、また循環器科学を復習するきっかけになりました。


<研修内容>
1週間通して常に山崎先生について回り、そのとこ時の症例についてディスカッションするなどして勉強しました。山崎先生は未熟な自分たちに対して、基本から丁寧に教えてくださいました。

24日(月)
1日中先生の診療所で外来の様子を見学させていただきました。先生が患者さんを診療する様子を見学した後でその患者についてのディスカッションをするという形で勉強しました。具体的には心電図の読解、凝固系、解剖など、その症例に関係する様々な内容について先生が質問し、それに対して答えるというものでした。外来は日本よりも一人ひとりに時間をかけている印象で、一人20分はかけていたと思います。患者さんのほうも自分の病気のことをよく勉強していて、よく質問していました。特に薬の要望が多く、保険によって支払われる薬などが違うようでした。日本との保険制度における違いを感じました。この日は通常よりも患者さんが多かったようで、先生は忙しくしていました。20人以上の診察をしていたと思います。

25日(火)
午前中はSt.John病院でTAVIを見学しました。先生は2週間に1件程度TAVIをされるそうですが、今回は幸運にも2件のTAVIを見学することができました。コントロールルームでの見学だけでなく、最後にカテーテル室に実際に入って解説していただきました。
昼食後は車で移動し、ほか2つの総合病院でのカテーテル検査と回診を見学しました。カテーテル室には入りませんでしたが、コントロールルームで冠状動脈造影の動画の見方を勉強させていただきました。造影の画像は3次元構造を2次元で写しているために、きちんと把握することが難しく感じました。

26日(水)
この日は1日中St.John病院で研修させていただきました。
午前中はカテーテル治療を2件見学させていただきました。一例目は上腸間膜動脈の狭窄例で、先生にとっても珍しい症例だったそうです。2例目はLADの狭窄例で、25日と同様に画像の把握に努めました。
午後は回診を見学し、PFOで奇異塞栓症が起こった患者さんや、心臓血管外科で開胸手術を行った患者さんなどの回診を経験しました。回診の見学では、単に見学するだけでなく、病室外で主にその患者さんの症例に関することをディスカッションして理解を深めました。

27日(木)
この日は朝St.John病院でカンファレンスの後、先生の診療所で外来を見学しました。カンファレンスは研修医の実際の症例についてのプレゼンテーションでした。あまり聞き取ることができませんでしたが、死亡例や副作用例があった場合、再発防止をカンファレンスで議論するそうです。
午後は先生の診療所で外来を見学しました。

28日(金)
この日も朝St.John病院でカンファレンスに参加しました。カンファレンスは業者の方が新しいカテーテルを売り込みに来られていて、そのカテーテルを実際に使ってみるなどして、利点などを質問し、確かめていました。カンファレンスの後は病院を回診しました。この日は回診だけでなく、病院で働く医師やコメディカルの方に直接お話しを聞くことができました。特に日本にはいないPA(フィジシャンアシスタント)やNP(ナースプラクティショナー)のお話を聞くことができ、アメリカの医療と日本の医療の違いを感じました。他にも過去の症例でナッツクラッカー症候群で左腎静脈が大動脈と上腸間膜動脈に挟まれ、左腎が鬱滞した症例などを勉強させていただきました。
午後は診療所で外来の見学をしました。外来にはポリオの患者さんが来られていました。患者さん自身が疾患について論理的に詳しく説明されて、大変勉強になりました。

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St.John病院

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山崎先生のオフィスにて



<生活について>
今回の研修は自分にとって初めてのアメリカ生活でしたが、山崎先生のお宅に泊まらせていただき、山崎先生と奥様のおかげで、不自由なく過ごすことができました。
平日の流れは6:00に起床し、6:30朝食で7:00には病院へ出発しました。帰宅は大体16:00から17:00くらいで、18:00ごろから夕食をとりました。夕食は奥様の信子さんに振る舞っていただき、毎日おいしくいただきました。夕食後は循環器科学の復習を先生との勉強会という形で1時間ほど行いました。勉強会の後は自由で、就寝は23時頃だったと思います。日によっては帰宅後にジョギングや散歩をしたり、また先生のお宅のジャグジーやプールに入らせていただきました。
洗濯に関しては洗濯機と乾燥機をかしていただき、まとめて洗濯していました。Wifiも先生にパスワードを教えていただき使うことができたので、不便はありませんでした。
気候は日本と比べてかなり寒いです。研修は8月でしたが、日本の秋くらいの気候で朝は長袖の上着を着るくらいの寒さでした。
治安については先生のお宅の周辺は大変良く、散歩もすることができます。病院への移動もすべて先生の車で送っていただいたのでまったく心配ありませんでした。
時差ボケですが、先生の希望で土曜日にアメリカに到着したことで、日曜日で体を慣らすことができ、また自分は飛行機で寝ていたためかまったく時差ボケがありませんでした。むしろ、アメリカで規則正しい生活をしていたせいか帰国してからのほうが時差ボケはひどかったです。
休日の日曜日は先生にフォード博物館へ連れて行っていただきました。早く実習が終わった日はデトロイトの中心部に連れて行っていただき、タイガーススタジアムをみせていいただいたりもしました。

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フォード博物館にて

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先生のお宅周辺


<実習を終えて>
アメリカの医療について
アメリカの医療制度については留学前に本を読むなどして、想像はしていたのですが、その想像と実際に行った印象は全く違いました。最近はTPPの影響もあるのか、アメリカの医療を批判し、不安を煽るような本が出版されています。本にはよくアメリカの保険が民間会社であるために保険が支払われずに治療できないというようなことがよく書かれていますが、実際にはメディケイドが基準となっているので、極端な例は少ないようです。留学前は病院には裕福な方しか来られないのかと思っていましたが、そんなことはありませんでした。しかし、日本の国民皆保険と比べるとやはり制約はあるようで、患者さんの多くが医療についてよく勉強されており、薬などを安いものに変えてほしいであるとか、減らしてほしいなど、要望をはっきりおっしゃっているような印象をうけました。
制度のほかに感じたことは外来で時間をかけているということです。先生も多くのことをお話していましたが、患者さんからの要望も多く、時間をかけて診療していました。また、山崎先生は医療の話だけでなく普通の会話もして場を和ませていらっしゃいました。普段患者として外来に行くことはありますが、アメリカでの外来と比べると余裕がないように思います。
雇用形態についても日本と違いがあり、一つの病院で働く医師もいれば、複数の病院と契約して働く医師もいるそうです。開業に関しても一人ではなくグループで開業するという点や診療所の外来で診た患者さんを総合病院でカテーテル治療を自分で治療することもでき、開業医でも患者さんを最後まで治療できる点も大きな違いだと思います。山崎先生は自分の診療所のほか複数の病院で働いておられましたが、毎日行く病院も違い、仕事の内容も違うので変化があり、これも魅力であると感じました。
もう一つ印象に残ったことはコメディカルのことで、日本と比べると様々な職種の方が働いていることです。自分もすべて把握することはできませんでしたが、ナースのほかにナース・プラクティショナー(NP)やフィジシャン・アシスタント(PA)など日本にはないコメディカルの方も多くいらっしゃいました。医師の監督下で一定の診療や治療をすることができたり、薬の処方もできるそうですが、病院での薬の処方や診療など日本での医師の仕事が多いと感じていた自分にとっては興味を持ちました。アメリカの制度をすべてまねるとは言いませんが、医師不足に対して医師を増やすのではなく、医師を補助するコメディカルを充実させることで改善できるのではないかと思いました。

医学の勉強について
先生に教えていただいたり、ディスカッションする中で自分の知識がまだまだ足りないと痛感しました。先生は循環器のことに関してはもちろん、それにかかわる内科全般について整理された知識をお持ちでした。日本では試験勉強ばかりに気を取られてしまい、知識を整理することを怠っていたとおもいます。先生に質問される中で、一対一の知識ではなく、疾患に関して、治療法や分類など関連付けて整理することが重要だと感じました。
先生が何度もお話しされていたことなのですが、先生は専門外の疾患の患者さんが来られた時に、ただ専門外だと対応するのではなく、専門の医師を紹介するなどして導いていらっしゃいました。当たり前のことのようですが、自分の専門以外の知識もしっかりしていなければならず、勉強を怠ってはできないことだと感じました。 今回様々なことを先生から教わることができましたが、日本での普段の勉強が重要であり、このことを再認識して残りの学生生活を過そうと思います。
自分は山崎先生に指導していただいたおかげで、自分を見つめなおすことができました。このような機会がもっとあればと思います。山崎先生に感謝するとともに、将来自分も山崎先生のように医学教育に進んで参加したいです。

英語について
アメリカと日本の違いは文化の違いなどはありますが、そこまで大きくは違わないと思います。しかし、アメリカには様々なバックグラウンドをお持ちの方や、日本の人々とは全く違う考え方をもった方がいます。自分はこのような人々と話すことこそが一番の利点だと思います。違う考え方に触れることで自分を見つめなおすことができますし、様々なキャリアを持つ人と話すことで自分のやるべきことが見えてくると思います。この利点を活かすためにも英語の勉強をぜひやって留学に臨むべきだと思います。自分は準備が足りず、あまり話すことができませんでしたが、帰国後は医学だけでなく、英語の勉強にも一層力を入れるようになりました。

将来について
今回の研修では本当にたくさんの経験をさせていただきました。その中で最も印象に残っていることは患者さんたちが山崎先生を本当に信頼していて、「山崎先生は本当に信頼できる医者だ。先生の指導を受けられて君たちは幸運だ」と自分たちに何度も言っておられたことです。そんな先生を見て、将来、山崎先生のような信頼される医師になりたいと強く思いました。先生の働く姿を見て、医師になるために足りないものをたくさん見つけることができ、本当に良かったと思っています。
加えて、将来は単に医師になるだけでなく、先生のように医学教育にもぜひ参加したいと思います。後輩にも自分がいただいたような経験ができるように願うと同時に、将来自分もそのような機会を作ることができればと思っています。


<最後に>
今回は初めての留学であったため、出発前はきちんと勉強できるのかなど不安で、失敗に終わるのではと思うこともありました。しかし、デトロイトでの1週間は本当に充実していて、かけがえのない経験になりました。今回の研修に参加したことで、日本での学生生活、日本医療、将来のキャリア、様々なことを見つめなおすことができ、本当に幸運であったと思います。この研修で学んだことを胸に残りの学生生活を過ごしていこうと思います。忙しい中ご指導してくださった山崎先生、毎日おいしいご飯を作っていただいた奥様の信子さん、このような素晴らしい機会を紹介していただいた尾野先生と中川先生に重ねて御礼を申し上げます。本当にありがとうございました。


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