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72歳男性H.Yさん

1.ご職業は何ですか?

財団法人にて雑誌編集、インタビュー、単行本出版、市民公開講座の開催等

2.心筋梗塞の発症日、既往歴はいつですか?

発症日は2006年1月17日。既往歴はありません。

3.喫煙歴は?

以前に吸っていたが現在は禁煙している(50年前、大学院学生時代5年間だけ喫煙経験あり。ただし、結婚後完全禁煙している)

担当医からのコメント

喫煙はわが国のような先進国において疾病の原因の中で防ぐことの出来る単一で最大のものであり、禁煙は今日最も確実にかつ短期的に大量の重篤な疾病を劇的に減らすことのできる方法です。すなわち、禁煙推進は喫煙者・非喫煙者の健康の維持と莫大な保険財政の節約になり、社会全体の健康増進に寄与する最大のものと言っても過言ではありません。ただし、この方の場合のように、大昔に喫煙していたというのは心血管疾患のriskにはなりません。

4.心筋梗塞の発作はいつ、何をしているときにおこりましたか?

1月17日0時に床に入ったが、すぐに寝付けず、30分後位から胸部圧迫感の為息苦さが一晩中続いて、30分感覚に目覚めて眠れなかった。

担当医からのコメント

普段と明らかに異なった胸部症状が出現した場合には、躊躇うことなく救急車を要請して頂きたいと思いますが、日頃から健康に自信のある方は、かえって難しいことなのかも知れませんね。心筋梗塞は緊急に治療する必要があります。心筋梗塞による死亡の半数は、症状が現れてから3~4時間以内に亡くなっています。治療を始めるのが早いほど、生き残る可能性が高くなります。疑わしい症状があれば、すぐに救急車を呼ぶべきです。訓練を受けた隊員が乗っている救急車で、病院の救急外来へ迅速に運ばれれば、救命率が上がります。かかりつけ医、家族、友人、隣人などに連絡することは、無駄に時間を費やすので、危険です。

5.その発作は具体的にはどのようなものでしたか?

翌朝近くの内科医の心電図による診断を受け、直ちに診断書を持って京大循環器内科外来に直行したが救急車でなく家内の運転のため1時間半を要した。幸いにも途中で心停止にいたらず、病院駐車場より外来まで一人で先に駆け込んだので、それ程の重症と思えなかった。後に冠動脈が完全に閉塞していると聞かされたときはショックであった。日ごろテニスで鍛えてきた筋力が無酸素呼吸に耐えて心停止にいたらなかったのかと思う。

担当医からのコメント

この場合も、救急車での搬送をお願いしたいところです。日頃の運動は心血管疾患の予防という観点から考えると、大変大事なことです。しかしながら、一旦発症した際には、運動しているから心停止をさけられるというものではありません。一刻も早く専門医による治療が必要となります。

6.急性心筋梗塞を発症される前になにか予兆のようなものはありましたか?

全く予兆はなく、至極充実した健康感であった。ただし前の週末に講師接待のため遅くなり、地下鉄のホームで背筋に異常な寒気を感じたことがあった。

担当医からのコメント

もしかすると、この1回だけが、梗塞前狭心症の発作だったのかもしれません。冠動脈疾患に対する危険因子はどうだったのでしょうか。動脈疾患の発症に影響を及ぼす危険因子には、避けられるものと避けられないものがあります。避けることのできない危険因子には加齢、性別が男性、早期に冠動脈疾患を起こした家族歴(近親者で50~55歳未満でこの病気を発症した人がいる)などがあります。避けうる危険因子は、主に生活習慣にかかわるものです。そのような危険因子にはコレステロール高値、高血圧、喫煙(改善できる最も重大な危険因子)、高脂肪食、運動不足、肥満、ストレスなどがあります。

7.病院を受診し、どのような検査をうけましたか?検査について医師からどのような説明をうけましたか?

心電図とエコーの検査を受け、ただちに心筋梗塞と診断され、経皮的手術を受けることになった。しかし発作後すでに12時間以上経過していたため、血管壁が壊死を起こしていれば血栓を除去して再灌流したときに、心臓破裂のリスクのあることを説明された。

担当医からのコメント

遮断された冠動脈を早急に修復できれば、心臓の組織は助かります。冠動脈形成術(ステント植え込み術)や血栓溶解薬で血栓を溶かすという治療法があります。効果を得るには、心臓発作が始まってから6時間以内に行うことが望ましいとされています。しかしながら、6時間を過ぎても効果がないわけではありません。 60~80%の人は初期治療によって血流量が増え、心臓組織の損傷が最低限に抑えられます。血小板が血栓を形成するのを防ぐアスピリンやヘパリンは、これらの治療効果を増強します。

8.病院ではどのような治療をうけましたか?治療について医師からどのような説明をうけましたか?

冠動脈ステント留置術を以下のように2回受けた。それぞれビデオ映像で説明頂いた。①平成18年1月17日冠動脈#17 cypherステント2本留置(右足大動脈よりカテーテル)②同年9月29日冠動脈#16cypherステント1本留置(左手首動脈よりカテーテル)術後のリハビリの重要性、食事の管理、薬(特に血栓阻害剤)の飲み忘れの注意など、説明された。

担当医からのコメント

治療法は個々の症例によって異なることがあります。最前の治療法を安心して受けて頂けるように詳しく内容を説明致します。

9.病院に入院中に、あるいは退院後に一番大変だったことはなんですか?それをどうやって解決してゆかれましたか?

入院中は多くの降圧剤のため,ふらつき易く、退院後、4月15日よりシグマートを中止し、アーチストを倍増してもらって解決した。しかし再発の不安感で寝つきが悪く、不眠に苦しんだ。4月26日より抗不安薬と睡眠剤を変更してもらって解決した。

担当医からのコメント

回復には心臓リハビリテーションが重要なため、入院中から開始します。2、3日以上ベッドで安静にしていると体力が低下して、うつ病や無力感の原因となることもあります。合併症がなければリハビリテーションを開始し、1日目にはいすに座る、手伝ってもらいながら体を動かす、いす型の室内用便器を使用する、本を読むなどから始めます。2日目あるいは3日目には歩いてトイレまで行ったり、負担にならない程度の運動ができるようになり、その後は日ごとに活発に動けるようになります。不眠や個別の症状に対しても、きめ細やかに対応致しますので、何でもおっしゃって下さい。

10.病院に入院して、あるいは退院後に、なにかよかったと思えることがありましたか?

一人の命を救うために多くの方々が献身的に努力下さっていることが分かって実感できたことが大きく、命のありがたさを再認識した。

担当医からのコメント

医師のみならず、看護師、臨床検査技師、事務の方など、チームを組んで治療にあたっています。

11.心筋梗塞の病気を経験されて、生き方や人生観について変化がありましたか?

一度死を覚悟し、ES細胞移植治験の心構えも出来、家族への遺言も残せたので、後は尊い命を救ってくださった方々へのご恩返しの人生と思って生きている。

担当医からのコメント

京都大学循環器内科においては、臨床のみならず、基礎研究にも大変力をいれており、世界に向けて新しい診断、治療、予防法を提唱できるよう日々努力しています。

12.実際に心筋梗塞を発症されるまでに、ご自身が心筋梗塞を起こすかもしれないと思っていましたか?

毎年の人間ドック定期検査では全て正常値の範囲内であったので、全く予期しなかった出来事であった。心筋梗塞は単なる生活習慣病ではなくストレスも誘因として大きく関わるものと思う。

担当医からのコメント

この方の例からも分かるように疾患の予防、予知という点で、まだ万全ではありません。日々我々も努力していきたいと思います。

13.食事や運動について、発症前とあとで変化がありましたか?現在食事や運動についてなにか工夫されていますか?

発症前は週に2回、2時間程度必ずテニスで汗を流していた。発症後、病院食に倣って魚と野菜を食事に多用した献立に変えた。毎週1回の京大でのリハビリ検診のほかに、毎日2時間程度の散歩と週1回、自転車エルゴメーターを試み、毎朝体重測定をして56~57kgの範囲に管理している。しかし自宅療養を基本にしているとはいえ、電子メールで重要案件など自宅に来るので、ストレス軽減の管理は困難である。

担当医からのコメント

物事に対して熱心で努力型であるためにストレスをためやすい人(性格)も冠動脈疾患の危険因子とされています。

14.社会に対して、患者様に対して、あるいは医師に対してなにかメッセージがありましたらお答え下さい。また、入院中あるいは現在うけられている医療について不足にお感じになる点や、なにか「こうしたほうが良い」とお考えになる点がありましたらお教えください。

心筋梗塞は突然襲ってくる点では、地震のリスクと同じである。従って多くの患者は退院後も常に再発のおそれからか、精神的に不安定になる。しかし個人差が大きいので睡眠剤や精神安定剤などの処方に当たってはこの個人差を医師の方々がご留意くださることを願いたい。心筋梗塞は生活習慣病といわれるが、人間関係や仕事上のストレス病でもあると思う。老化と共にストレス耐性能が現象するのもその一因であろう。患者には一旦傷害した心機能は回復しなくとも、残された機能と共存する智恵と自信を与えるように接していただきたい。そうすれば将来医学の進歩にとり心筋の再生医療が現実のものとなる日が来るのかもしれない。

担当医からのコメント

貴重なご意見をありがとうございます。至らない点も多いかと存じますが、日々努力して改善していきたいと思います。


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