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市民公開講座のご報告

 近年日本でも、心筋梗塞や狭心症の発作にみまわれる人が増加しています。心筋梗塞、狭心症をまとめて虚血性心疾患といいます。これは血液の導管である動脈の硬化によって必要な血液の流れが途絶えてしまうことで、心臓の筋肉が虚血(血液供給の不十分な状態)に陥り、筋肉の細胞が障害されてしまう病気です。動脈硬化の原因は、食生活の変化や交通機関の発達に伴って、過食の人や運動不足の人が増えていることにあります。過食や運動不足は肥満、糖尿病、高血圧、高脂血症、高尿酸血症など、様々な異常を引き起こし、その結果として動脈硬化を進行させます。 当院の心臓リハビリテーション部門では、虚血性心疾患の患者さんに対して再発予防を目的に、食事指導や運動指導を行っています。しかし食生活や運動習慣を見直すことは、すでに虚血性心疾患と診断された方だけでなく、これまで病気を起こしたことのない方にとっても大切です。実際、虚血性心疾患の発作を起こして入院する方は、それまでは特に病気というものをしたことがなかった、という方がほとんどなのです。 動脈硬化の予防が大切であることは、テレビや新聞でも報道されています。しかし残念なことに、これらの情報の中には誤った表現や、過剰な表現が用いられている場合も見受けられます。一般の市民の方々にも虚血性心疾患の予防法について正しく理解していただきたい、という思いから、平成18年1月14日(土)に講演会「心筋梗塞の予防のための運動と食事 ~正しい知識を学びましょう~」を開きました。以下は当日の内容のご報告です。

「狭心症と心筋梗塞の最新治療」
京都大学大学院医学研究科循環器内科学講師 中川義久

 虚血性心疾患は冠動脈が動脈硬化によって狭くなったり、詰まったりすることが原因です。従って、この冠動脈の血流を回復させることが治療として最も重要です。この血行再建の方法には循環器内科医が行う「カテーテルによる治療」と、心臓血管外科医がメスで切って手術をする「外科治療(冠動脈バイパス術)」があります。

経皮的冠動脈形成術(PCI: PercutaneousCoronaryIntervention)

 「カテーテルによる治療」は1977年にグルンチッヒにより開発されました。道具の改良や技術の進歩により、現在では殆どの病変に対してカテーテルによる治療を行うことができるようになりました。カテーテルによる治療は省略してPCI(ピー・シー・アイ)と呼ばれます。これは動脈硬化で狭くなっている血管のなかに、ワイヤーやバルーン(風船)、あるいはステント(金属でできた金網)を入れて血管を元通りに広げることで冠動脈の血流を回復させようとする治療法です。

薬剤溶出ステントの到来

 従来のステントではいったん治療が成功して血管を広げることができても、数ヵ月後以降に再び血管が狭くなること(再狭窄)が20%前後の患者さんにおこるということが大きな問題でした。この再狭窄は、ステントを入れた部位の血管の中の細胞(内皮細胞)が過剰に増殖することでおきてきます。それに対して、この細胞の増殖を抑える作用を持つ薬の塗られたステントが開発され、日本でも平成16年の秋より保険適応となりました。この新しいステントは再狭窄の頻度も10%未満です。

冠動脈バイパス術(CABG: CoronaryArteryBypassGraft)

 冠動脈バイパス術は病気のある冠動脈に新しく血液が流れるように血管をつなぐ手術です。成功すれば再発率は少ない優れた治療法ですが、胸骨正中切開といって、胸を大きく開ける必要があり、カテーテルによる治療に比べると体への負担は大きくなります。しかし患者さんによっては心臓外科医による「冠動脈バイパス手術」の方が適している場合もあります。循環器内科では各患者さんに最善の治療法は何かを十分に説明するようにしています。

動脈硬化の赤信号"メタボリックシンドローム"って何?

 日本人における疫学調査から、内臓脂肪(腹腔内脂肪面積)が増加するにつれ、男女とも動脈硬化疾患の危険性が高くなることが明らかになりました。特に、以下の項目に当てはまる場合は"メタボリックシンドローム"と診断され、心筋梗塞発症の危険性が高く、無症状のうちから治療が必要と考えられます。

必須項目

  • ウエスト周囲径(へその周りで計測)
  • 男性⇒85cm以上
  • 女性⇒90cm以上
  • 以下の項目中、2項目以上
  • 中性脂肪(TG)⇒150mg/dl以上
  • HDLコレステロール⇒40mg/dl未満
  • 収縮期血圧値⇒130mmHg以上
  • 拡張期血圧値⇒85mmHg以上
  • 空腹時血糖値⇒110mg/dl以上
日本人成人男性の2~3割、女性では1割の方がメタボリックシンドロームであると考えられています。

「動脈硬化に対する運動療法の効果」
京都大学大学院人間環境学研究科助教授 林達也

生活習慣病とは

食事の仕方や食べ物、日常身体活動、飲酒、喫煙、といった各個人の生活習慣(ライフスタイル)がその病気の進行に深く関係する病気をまとめて生活習慣病といいます。日本では最近肥満人口の増加に伴って糖尿病や動脈硬化疾患の増加が問題となっています

肥満と動脈硬化疾患の関係

肥満といっても特に内臓脂肪の蓄積は遺伝、運動不足、食べすぎで起こります。この内臓脂肪が」たまってくると、動脈硬化を進行させるホルモンが増え、逆に動脈硬化を抑えるホルモンが減ってくる結果として直接動脈硬化が引き起こされるということが解ってきました。

動脈硬化の危険因子

肥満のほかにも、高血圧、高脂血症、糖尿病も動脈硬化を進行させます。ひとつひとつの危険因子は大したことはなくても、重なると怖いのです。動脈硬化で血管が詰まってきても、7割以上詰まっていない限り症状はほとんどでません。

危険因子をまとめて減らす、有酸素運動

適度な運動はこれらの動脈硬化の危険因子のすべてに有効です。体力に自信があって、きつい運動がしたい!という方もいるかもしれませんが、きつい運動は、血圧や血糖を上昇させるアドレナリンというホルモンを増やしてしまうため、血圧を上昇させ、多少なりとも心臓に負担をかけてしまいます。健康のためには有酸素運動と、生活筋力を維持する程度の軽い筋力トレーニングが大切です。

有酸素運動の効果

  • 糖尿病の改善
  • 血圧調整
  • 高脂血症の改善
  • 善玉コレステロールの増加
  • 中性脂肪の減少
  • 体脂肪の減少
  • 血管の細胞機能の上昇
  • インスリン感受性が高くなる
  • 心肺機能のアップ
  • 心理的効果

「動脈硬化を予防するための有効な運動法」
京都大学医学部附属病院理学療法部健康運動指導士 久保摩里子

皆さんは日頃何か心がけて運動されていますか?
動脈硬化を予防するためには、軽く息が弾み、隣の人とおしゃべりをしながらでもできる「ニコニコペース」の運動、つまり有酸素運動(ウォーキング、自転車、水中歩行など)が適しています。これに加え、加齢による筋肉の減少を抑えるために筋力トレーニングも行いましょう。 まずはストレッチなどの準備運動を行い、筋肉や関節をしっかりほぐしてから有酸素運動、筋トレにうつります。運動前後の体調チェックも忘れずに。きつい運動は血圧を上げすぎたりして心臓に負担になることがありますので注意が必要です。運動中に心臓に負担をかけないために、息をこらえないで、呼吸を意識するようにしましょう。各時間や内容については個人の体力や体調に合わせ、無理のないように、楽しく継続して行うことが大切です。心臓の病気をお持ちで、具体的な方法についての説明を希望される方は、心臓リハビリテーション部門にお問い合わせ下さい。

「リバウンドしないダイエットのための食事」
京都大学医学部附属病院病態栄養部管理栄養士 和田啓子

 体重が減らない原因を"体質"のせいにしていませんか?普段の食生活を少しだけ見直し、今からできる簡単ダイエットに挑戦してみましょう。太りやすい生活習慣とは、外食が多い、若い方と一緒に住んでいる(洋食に偏る生活になりやすい)、運動量の減少、不規則な生活、ストレス、ストレスによるやけ食い、などなど・・・。
 食事療法を、といっても特別なことをする必要はありません。重要なことは毎食に主食、主菜、副菜を添えて、栄養素のバランスを三食ともにそろえることによって体をいい状態に保つことです。また、①早食いの改善、②空腹時に買い物に行かない、③目の前に食べ物を置かない、といった行動に気をつけていただくことも必要です。
 体重が増えてしまったとき、今更ダイエットなんて出来ない、と思わずに、今日そのときから近い目標をもって、継続して食事療法に取り組んでいただくことが大切です。

食事療法の基本

  1. 1日、3食食べましょう
  2. 食事時間は規則正しく
  3. ゆっくりよく噛んで食べましょう
  4. 間食・夜食が多くならないように
  5. アルコールはほどほどに
  6. 味付けは薄めで
  7. 毎食、主食、主菜、副菜を揃えましょう
  8. 適正カロリー(kcal)=標準体重×(25~35)
※標準体重(kg)=身長(m)×身長(m)×22

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