HOME > 診療について > 大動脈瘤

大動脈瘤

大動脈瘤とは

 大動脈は、心臓から全身に血液を送り出す重要な血管で、心臓から身体の中心部を通り腹部まで伸び、そこから両肢に向かって左右の動脈に枝分かれしています。加齢や動脈硬化等によって血管の壁が弱くなると、大動脈は膨らみ始め、瘤(こぶ)のようになることがあります。これを大動脈瘤と言い、特に胸部にできたものを胸部大動脈瘤腹部にできたものを腹部大動脈瘤と言います。
 初期の段階でまだ瘤が小さいときは、定期的に診察を受け、高血圧や髙コレステロール結了に対する治療をおこないます。
 しかし、瘤が更に大きくなり瘤径が拡大した場合や、形態が悪い動脈瘤の場合は、やがて大動脈瘤は破裂し、体内で大出血が起こって死に至る危険性があります。そのため、医師から大動脈瘤の破裂の危険があるという診断を受けた場合は、何らかの侵襲的治療(手術あるいはカテーテル治療)を受けられることをお勧めします。

topic01_2_l.jpg

日本ステントグラフト実施基準管理委員会http://stentgraft.jp/より引用


胸部大動脈瘤の自然歴(手術せずに経過をみた場合の破裂する確率)

動脈瘤の大きさ 1年間の破裂率
4cm以下 0%
4-5cm 0-1.4%
5-6cm 4.3-16%
6cm以上 10-19%


胸部大動脈瘤の侵襲的治療の適応

  • 55mm以上の胸部大動脈瘤
  • 急速に拡大する胸部大動脈瘤(6ヶ月で5mm以上の拡大)
  • 嚢状瘤
  • 仮性瘤
 

腹部大動脈瘤の自然歴(手術せずに経過をみた場合の破裂する確率)

動脈瘤の大きさ 1年間の破裂率
4cm以下 0%
4-5cm 0.5-5%
5-6cm 3-15%
6-7cm 10-20%
7cm以降 20-40%


腹部大動脈瘤の侵襲的治療の適応

  • 55mm以上の腹部大動脈瘤
  • 30mm以上の腸骨動脈瘤
  • 45-55mmで破裂のリスク高い方(女性・高血圧・喫煙・COPD・家族歴)
  • 急速に拡大する腹部大動脈瘤(6ヶ月で5mm以上の拡大)
  • 嚢状瘤 
  • 仮性瘤
     
嚢状瘤とは以下のような形態を言います。
nojo.PNG仮性瘤とは以下の様な形態をいいます。
kasei.PNG
日本循環器学会 大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン2011より引用
 

大動脈瘤の治療方法

 胸部大動脈瘤を治療する方法として、①外科手術による人工血管置換術と②ステントグラフト内挿術(血管内治療術)の2つの方法があります。

1)外科手術による人工血管置換術

 従来から行われている根治的な治療方法です。全身麻酔のもとで胸部をメスで切り開き、手術をおこないます。胸部大動脈瘤の治療には人工心肺装置を用います。弓部の場合、全身は冷却し冬眠状態として臓器を守り一時的に血流を止め、脳のみ血流を流すという脳分離体外循環という方法を用います。下行大動脈の場合は常温で上下を遮断するもしくは遮断が困難な場合は全身を冷却し冬眠状態として臓器を守り一時的に血流を止めて、人工血管という布製のチューブを正常な部位に手縫いでつなぎ、置き換えます。腹部大動脈瘤の場合は、全身麻酔のもとで腹部をメスで切り開き、大動脈瘤の上下で血流を遮断したうえで、人工血管という布製のチューブを正常な部位に手縫いでつなぎ置き換えます。身体の負担は大きく、一定期間の入院生活が必要であり、ある程度体力がある患者様でなければ困難ですが、年々成績は向上しており、長期成績も良好です。しかし、ご高齢であることや他の病気(心臓病、肺の病気、腎臓病、悪性腫瘍等)が併存している、すでに開胸や開腹での手術を受けておられるなどの理由により、手術の危険性が高くなる場合もあります。また術後の体力の低下をきたしやすく、もともと体力に余裕がない方にとっては手術後の日常生活に影響する場合もあります。

2)ステントグラフト内挿術(血管内治療術)

 ステントグラフトとは、人工血管(グラフト)に針金状の金属を編んだ金網(ステント)を縫い合わせたものです。ステントグラフト内挿術は、このステントグラフトをカテーテル(プラスチック製のチューブ)の中に納めて太ももの付け根から血管の中に入れ、患部で広げて血管を補強するとともに動脈瘤の部分に血液が流れないようにする治療です。メスで切る部分が小さいため、患者さんの負担は小さく、入院期間が短くなり、歩いたり、食事をとったりすることが早くできるようになります。他の病気が理由で外科手術を見合わせておられる方やご高齢の方への新しい治療法として普及している治療法です。形態によっては困難な場合がありますが、初期成績は外科的手術と比べても良好な結果が報告されています。
 ただし根治的な外科手術と違い、ステントグラフトの移動、枝からの逆流などの問題で動脈瘤が拡大し破裂の危険が再び生じる場合があります。そのため手術後は原則として定期的な診察と検査を受けていただき、動脈瘤とステントグラフトの状態を定期的に観察することが必要です。動脈瘤の拡大があれば、破裂を予防するために追加のカテーテル治療や外科手術を行う必要があります。
 外科手術でも血管内治療でも治療に伴って不具合や有害事象(好ましくない症状)が発生することがあります。
 

大動脈解離/解離性大動脈瘤とは

 大動脈壁が内膜に亀裂が入ることで中膜のレベルで二層に剥離して、本来の大動脈腔(真腔:true lumen)以外に、壁内に生じた新たな腔(偽腔:false lumen)を持つものを大動脈解離:aortic dissectionといいます。

大動脈解離の症状は、
 ・いままで経験したことのないような激烈な胸痛
 ・背部痛
 ・むねから背中に書けての裂けるような(引きちぎられるような)痛み。
 ・胸からお腹にかけての痛みが移動する。
といった特徴がありますが、あまり症状が強くなく偶然慢性期(時間がたってから)に発見される患者さんもいらっしゃいます。
stanford.jpg

大動脈解離の治療法

 大動脈解離はStanford A型(上行大動脈に解離があるもの)とStanford B型(上行大動脈に解離がないもの)によって、治療法は大きく異なります。
 急性大動脈解離でStanford A型であれば、心タンポナーデや心筋梗塞、急性大動脈弁閉鎖不全症にて死に至る危険性が高く、緊急手術が必要となります。Stanford B型であれば、一般的には内科的治療(入院のうえで安静・血圧コントロール)を通常おこないますが、大動脈から分岐する枝に解離が及んで臓器の血流障害を起こした場合や、破裂兆候がある場合、また慢性期に大動脈径が拡大した場合は、外科手術やカテーテル手術が必要となる場合があります。


ページの先頭へ