Detroit

デトロイト研修レポート 京都大学医学部医学科4回生 浅井 沙月

今回、アメリカで循環器内科の開業医をされている山崎先生のもとへ伺い、8月17日~8月24日の約一週間病院実習をさせていただきました。この一週間の実習は私にとって本当に素晴らしく貴重で、かつ、最高に楽しいものとなりました。初めに、この実習のために尽力してくださった山崎先生、奥様、中川先生、尾野先生、京大の先生方に心より感謝いたします。

1.    デトロイトに出発するまで
実習に適した服装や靴、細かい一週間の予定の他、気候、入国審査での注意点、所持金についてなど、細やかな計画書を山崎先生が7月中旬頃に送ってくださいます。これでほとんどの実習に関する疑問は解消されますが、その他伺いたいことは山崎先生に直接メールで伺いました。私が伺ったことは次の通り
・空港からご自宅までの移動
→連絡の方法だけしっかりと打合せて、後は先生が迎えに来て下さいました。
・Wi-fiの利用状況について
→ご自宅、各病院のもののパスワード等を教えていただけます。外に出てしまうとネットにつなげませんが不自由しませんでした。
・洗濯について
→ご自宅の洗濯機と乾燥機を自由に貸していただけました。洗剤なども使わせていただけました。
その他、私が持って行ってよかった、持っていくべきだと思ったものは、歯ブラシなどの洗面具、シャンプー・リンス(ボディソープは置いてくださっていたものを使わせていただきました)、ドライヤー、水着です。
ということで、先生がくださる計画表に沿って準備する以外に学生が事前にしないといけないのは、航空券と循環器の勉強、英語の準備です。
航空券はデトロイト・メトロポリタン空港(DTW)行のものです。できるだけ早く取ると安く、短時間のものを買うことができます。が、ひとつ注意しておくべきことは、できるだけ学生3人の便、あるいは到着時間を揃える方が良いということです。上記の通り、先生がわざわざ空港まで迎えに来てくださいます。私達は、全員は揃えることができなかったので2回も先生に来ていただくことになってしまいました。本当に申し訳なかったです。
循環器の勉強ですが、まずは京大での1週間の実習があります。時期は学生と尾野先生で決めますが、私達は7月26日(金)~8月1日(木)にやらせていただきました。内容は、幾つか授業を受けたり手術を見学したりする他、1人ずつ担当患者さんを1人決めて、最終日にその方の治療や経過とともに、何か関係のある論文の内容をまとめて発表するというものです。初めての病院実習ということで最初はとても緊張しましたが、超少人数での授業や実際に患者さんとお会いして話すことはとてもよい勉強となりました。また、この実習以外に自分でもしっかりと勉強しておくことをお薦めします。私個人としてはリブロを解きました。これのお陰で基本的な知識は多少得られたと思います。
英語についてこの実習を通して痛感したのは、リスニング能力の必要性です。しゃべるのは、簡単な英単語をつなぐ、あるいはYES, NOだけでも可能な部分があるかもしれませんが、リスニングだけはどうにもなりません。ネイティブの英語は想像以上に速く、また、息切れのある方やマスクをつけている方、ご年配の方の英語はさらに聞き取りが難しいです。医療スタッフ同士の会話もとても速く、分からない略語なども入ってくるのでなかなか理解できませんでした。しかし嬉しい事に、患者さんもスタッフの方々も結構私達学生に話しかけてくださいます。リスニング能力がないためになかなか会話できなかったのが残念でした。聞き取りの練習なら工夫次第で日本でも十分出来たな、と少し後悔しました。

2.    生活全般について
去年の先輩方はホテルに宿泊されていましたが、今年から先生のご自宅にお邪魔させていただくことになりました。先生もつい2ヶ月ほど前に引っ越しされたということでしたが、とにかく大きくて綺麗なお家でした。私達は、川端くんに1部屋、吉川さんと私で1部屋を使わせていただきました。初日にはお家ツアーをしていただいたのですが、そこで見たのはお庭にあるジャクジーとプール、地下にはビリヤード台。感動です。どちらも夕食後に一日ずつ楽しませていただきました。
だいたいの一日の流れは次のようになっていました。
6:00 起床。準備・着替えなど
6:30 朝ごはん。小さなお部屋で先生を含めた4人でシリアルと山盛りのフルーツ。
~7:00 出発。だいたいご飯を食べ終わり次第出発します。
実習。詳しくは3.実習について で。お昼ごはんはそれぞれの病院のスタッフのためのお昼ごはんにお邪魔しました。
3:30~17:00 帰宅
18:30頃 夕食。夕食までは部屋でのんびりしてました。夕食は大きなダイニングルームで奥様も含めた5人で、奥様の美味しい手料理を頂きます。本当に美味しかったです。1日はご自宅のプールサイドでご飯をいただくという贅沢な時間を過ごさせていただきました。
夕食後は先生が講義をしてくださったり、上記のようにみんなで遊んだり、近隣の散歩、星の観察などをしました。
22:00頃 就寝。実習でヘトヘト、朝も早いということで、本当にすぐにぐっすり寝てしまいました。勉強できたとしてもその日の復習で精一杯で、それだけ充実した実習だったのだと思います。
このような毎日なので、最後には先生ともとても仲良くさせていただきました。人生初のビリヤードがとても楽しかったです。
その他、到着した次の日の日曜日には、ヘンリー・フォード博物館、市民プールへ、最終日の金曜日の実習終了後には、デトロイト市内やベルアイルに連れて行っていただきました。

 

 

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3.    実習について

いよいよ実習についてです。アメリカの開業体制は日本と大きく異なっています。まず先生は複数の医師とともに1つのオフィスを開業しています。そこの外来で患者さんのフォローや新規の患者さんへの対応をしています。そのオフィスとは別に、大きな病院と個人的に契約しており、そこでは回診や手術などを行っています。今回伺ったのはSt. John Hospital とその姉妹病院である Macomb Hospital でした。オフィスでフォローしている患者さんで入院などが必要となった場合は契約している病院に入ってもらい担当し続け、病院で手術した患者さんのフォローはオフィスに来てもらう、というように患者さんに常に寄り添った医療を提供できるシステムのように感じました。
また、合間の空いた時間などには先生が講義をしてくださります。この講義がとても分かりやすくて勉強になりました。講義は、先生が私達に質問しながら進められていくので、自分の勉強不足をひしひしと感じました。とんでもなく間違った答えをたくさんしてしまいました。しかし、先生はすぐに答えを言うことなく忍耐強く私達の自分で考える時間をくださるので、とてもよく頭に残っています。インプットだけの勉強の脆弱さ、間違ってもいいからアウトプットする大切さがよくわかりました。
以下、一週間の実習内容です。
月曜日
7:00~14:30 はオフィスで外来を診ます。アメリカでの外来は、患者さんが個室の診察室に先に入って待っておられ、そこに医師がコンピュータなどを持って会いに行くという形をとっていました。診察の際は、学生が1人ずつ先生と一緒に診察室に入れていただきます。待っている他の学生は、次の自分の担当する次の患者さんのカルテを見たり、その病気について調べたりして準備します。そしてその患者さんの番になったら、先生にその患者さんについてのまとめを口頭で述べてから診察室へ向かいます。これを3人でグルグルと回していきました。この日は20人弱の患者さんを診たと思います。
その後St. John に移動しました。先生が16:00から会議ということで一時間半ほど休憩。その後17:00からの1時間のカンファレンス(30分の麻酔薬についてのセミナーと30分の症例検討会)に参加させていただきました。
火曜日
7:00~ St. John でPCI の待機をしていました。診断を兼ねたカテーテルで、PCIが必要と判断されたらすぐに先生が施術するということでした。私達は7:00に病院に着きましたが、その患者さんのカテーテル自体は6:30からだったそうです。朝早くからの手術はアメリカでは結構普通であるようでした。結果としてPCIが必要と判断されて先生が施術されました。私達は清潔には入らず、外で見させていただきました。本当に鮮やかな施術でびっくりしました。術後には写真や動画を見ながら説明をしてくださったので、しっかりと理解することが出来ました。
9:00~12:00はMacomb へ移動して10人ほど回診しました。回診は、先生にひたすらくっついて回らせていただきます。患者さんの病気について説明していただいたり、聴診器で心臓の音を聞かせていただいたりしました。その後13:00~15:30まではひたすらに心電図の読解です。心電図は、コンピュータがだいたいの異常を見つけて打ち出してくれているのですが、最後のチェックは医師が行っていました。このチェックの担当がちょうど先生に回ってきた時だったようです。とんでもない量の心電図でした。これも、先生が自分でやられたらとても早く終わるのでしょうが、私達が1人ずつ交代で自分で考えた所見を言って、先生に直してもらい、私達でコンピュータに打ち込みをやらせてくださいました。全部見終わった2時間半後には、先生とハイタッチをしました。
この日先生は救急の担当でしたので、もし連絡が入ればすぐに駆けつけなければいけませんでした。私達もあまり遅くない時間でしたら動向させていただく、ということでしたが、幸い、この日は救急の患者さんはいなかったそうです。
水曜日
7:00~9:30 は再びPCI です。手術場の雰囲気はとても和やかで、外でいろいろな機械を操作されているスタッフの方がいっぱい喋りかけてくださいました。水曜日はいつも先生の手術の日のようで、本来なら3件ほど、多いときは6件も手術が入るそうですが、今日の先生の手術はこの1件だけでした。本当に珍しいそうです。そして9:30~16:00 はひたすら回診と、途中で他の先生のPCIが入ったとの連絡があれば、見学させていただきに行きました。だいたい25人ぐらいの回診があったと思います。
木曜日
7:00~8:00 はSt. John でカンファレンスに参加しました。その後オフィスに移動して8:30~16:00 に30人弱の患者さんの外来を診ました。
金曜日
7:00~8:00 にSt. John でのセミナーに参加しました。このセミナーはフェロー(4年の大学、その後4年のメディカルスクール卒業後、インターンが1年、レジデントが2年、フェローが3年というのがアメリカのシステムです)と先生だけで、ネットを通じてセミナーのビデオを見るというものでした。所々でビデオを止めて、活発な議論をなさっていました。その後8:30~回診をしていましたが、途中でPCIが入ったということなので9:30~11:30 は手術見学をしました。その後オフィスへ移動しました。オフィスでは10人ほどの外来と、その前と後に今度はエコーの読解を教えていただきました。これも医師によるチェックに担当があり、その担当が回ってきたようです。エコーはなかなか今まで見る機会も少なく、読解も心電図以上に難しいように感じていたので、まとめてたくさんのエコーを見ながら解説していただいたこの時間はとても勉強になりました。

4.    最後に
実際にこの実習が始まる前までは、たった一週間ということでどれほどのことが学べるのかという不安や、先生のご自宅にお邪魔するということで、いろいろと心配することも多かったです。しかし、本当に充実して楽しい一週間を過ごさせていただきました。本当に、こんなに楽しく過ごせるとは思ってなく、帰る日はとても心残りに感じました。実習の内容もとても充実しており、一週間という短い期間では考えられないほど多くの知識や経験を与えていただきました。このような素晴らしい機会を与えてくださった山崎先生、奥様、その他多くの皆様に改めて心から感謝を申し上げます。
この実習の中で一番心に残っているのは、患者さんがみなさんとてもフレンドリーで私達の実習に協力してくださったこと、そして患者さんの多くが山崎先生のこと心から信頼しており、「山崎先生は素晴らしい医師で、私たちは本当に彼のことが大好きだ」と私に伝えてくださったことです。このような素晴らしい先輩がいらっしゃることは京大生にとっての財産であり誇りだと思います。これから先も後輩たちにこのような素晴らしい機会が用意され、私がさせていただいたようなかけがえのない経験ができることを願います。本当にありがとうございました。

 

 

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デトロイト研修レポート 京都大学医学部医学科4回生 吉川 祥子

改めて振り返ってみても、まだ臨床を知らない学生の時期にアメリカの臨床現場を自分で見て聞いて学ぶ体験ができたことは貴重としか言いようがありません。これまでになく充実した、楽しい夏休みを過ごせました。素晴らしい機会を設けて下さいました山崎先生、奥様、尾野先生、中川先生、秘書の清水さん、京大病院の実習でお世話になった方々に心より感謝申し上げます。
以下拙文ながら本実習のレポートとさせていただきます。

デトロイトと言えば自動車、というか財政破綻、、?というイメージの先行しつつあった7月末。
公正なるじゃんけんにてデトロイト行きの決まった私たち3名は、デトロイト実習に先立つ準備期間として京大病院での実習が始まったところでした。
京大病院では、心カテ・アブレーション・CCU見学や、動脈硬化・冠動脈・心電図・PCIについての講義に加え、担当になった患者さんの検査・PCIの見学もさせていただきました。
1週間という短い間でしたが、教わった内容は多岐にわたり、実際の手技を見るのも何もかもが初めてだったのでとても新鮮でした。しかし反省すべき点もありました。せっかく担当患者さんを割り当てていただいているにも関わらず、患者さんと会話を続けられる自信が持てぬゆえに体調の優れない方を前にどのような表情で何を話しかければ良いのかなどとばかり考えてしまい、一度も自分からお話しに行くことなく1週間が終わってしまったことです。京大病院が提供する医療の現場を実際に見て循環器内科の大まかなイメージが少し描けたと同時に、マニュアルなしに行動できないという臨床に出るにあたって致命的な欠陥も浮き彫りになった1週間でした。

その2週間後、待ちに待ったデトロイトへ旅立ちました。
17日の早朝、1人だけ先に到着してしまった私は山崎先生ご夫婦に車で迎えに来ていただき、先生のご自宅へ向かいました。ご自宅といっても、デトロイトの歴史的建造物の称号ある建物は、サイズも醸し出すオーラもお城にしか見えませんでした。用意してくださっていたお部屋でゆっくりした後、まずはご自宅観光、続いてHenry FordのShow House、Belle isleという島の観光に連れて行っていただき、33時間フライトの疲れもすっかり癒やされました。(※航空券は5月中におさえるべきです。)デトロイト市内もネットで騒がれているような荒廃の感はなく、若干の喪失感を覚えたものと言えば、Belle isleに聳え立つ水の絶えた噴水くらいでした。


17日夜には浅井さんと川端くんも到着し、翌日は3人揃ってオフィス・St.John病院の中を簡単に見学した後、Henry Ford 博物館、市民プールに連れて行っていただきました。いかに楽しい観光であったかをここでお伝えしようとすると何をしに行ったのか分からなくなりそうなので、手短に感想を述べます。博物館は想像を超えたスケールで、車や飛行機の屋内展示を半分ほど楽しんでから屋外展示に向かうと、広大な土地はたくさんの展示、観光客によって活気あふれる1つの村、文化を再現しているといった様子でした。市民プールでは先生のタフさを垣間見て、ご自宅へ戻りました。この日も奥様の手料理をいただき、その後先生に虚血性心疾患の概要について講義していただいてから就寝しました。


月曜は基本的に一日中オフィスで外来患者さんを診る曜日だそうで、翌朝は朝ごはんをいただいてから6:45にご自宅を出発し、オフィスに向かいました。アメリカの開業医は病院とは独立して外来患者を診るためのオフィスを持っていて、入院が必要になると契約している病院に入院してもらうのだそうです。先生は10人のグループで開業されているため、担当の患者さんが入院になってもご自身または同じグループの医師が病院を回診を行うことで、退院まで毎日その患者さんのケアが可能という仕組みです。退院後のフォローアップもまたオフィスにて行われていました。
私たちはまず患者さんのカルテを見て主訴、既往歴、現病歴を大体把握した後、3人交替で診察室に入って、先生と患者さんの対話”挨拶に始まり、最近の生活についてちょっとした世間話から、病状や今後の治療方針についての説明に至るまで”を間近で見学させていただきました。
ほんの5分ほどの間にも、患者さんが先生を信頼していることは表情や話しぶりからよく分かり、中には先生を見るなり感激して泣きそうになっておられる方までいらっしゃいました。先生の分かりやすい説明や患者さんの話を聴く姿から、先生が築いておられる信頼関係は医学知識の深さだけでなく、伝え理解することを第一義とした接し方によるものであろうと感じました。
先生は休憩する間もない忙しさの中、オフィスの患者さんの多くに処方されているワーファリンや将来取って代わるであろう新薬、不整脈などについて分かりやすくお話くださり、とても勉強になりました。先生はSt.John病院やMacomb病院でも働いておられ、この日は先生のミーティングのためSt.John病院に向かいました。その後はカンファレンスを見学し、18時頃帰宅しました。先生に付いていただけで初日から疲れてしまい、奥様の手料理をいただいた後はすぐに就寝しました。


火曜朝はSt.John病院でPCI症例が入り、初めて先生の手技を見ることになりました。冠動脈造影
をしてみるとRCAもLADも狭窄していて、一先ずLADにPCIを施行してRCAの方は翌日ということでした。2Dの画面を見ながらのPCI手技は順調に進み、LADのステント再狭窄部位で内側からバルーンを膨らませると、造影画面でさっきまで消えそうだった血流がはっきりと見えるのが確認できました。これがたった今目の前で行われたのだと思うと感動でした。
その後はMacomb病院に向かい、エコーをとった患者さんの回診について行きました。アメリカは患者さんのプライバシーに厳しく、部屋はほとんどが個室でした。エコー結果やカルテ全体に目を通して状態を把握した上、患者さんと会って聴診をとり、今の様子や今後の治療について話し、summaryをdictation(=レポートを音声で記録する作業)する、という一連の流れは、言葉で言うほど単純なものではありませんでした。癌や呼吸器系疾患など循環器以外の科が専門とする疾患を抱えている方も多いですし、また患者さんの話とカルテが食い違う、実は以前関連する症状で他病院にかかっていたなど目の前のカルテを見るだけでは分からないこともあり、その度に過去の資料を探したり、他の担当医師やAPNの方と話したりしておられました。APNとは医師と看護師の中間職にあたり、日本にはない資格です。患者の病状を把握、分析してカルテ記載を行い、必要な医療処置も行えるそうで、先生も医師にとって大変助かる存在だとおっしゃっていました。そんな姿を見て、制度は国によって若干違っても医療は間違いなく医療チームの連携に支えられていると感じました。回診後は、ハンガーを折り曲げて作られた冠動脈模型で何パターンかある造影画面の見方を教わり、その後2時間半ひたすら心電図判読の練習をしました。いざ心電図を目の前にすると真っ先に目に入った部分ばかりに注目してしまい、正常すら正常と判らないという状況でしたが、先生は初歩的な質問にも優しく分かりやすい図で説明して下さり、体系的な読み方を練習するうちに意味が分かってきて面白いとすら思えるようになりました。


水曜はSt.Johnにて前日の患者さんのRCAのPCI見学に始まりました。3ヶ所も狭窄部位がありましたが、75%狭窄の2ヶ所は入れてもずれ落ちる可能性があるらしく、一番下の99%狭窄部位のみステントを入れることになりました。アメリカは皆保険ではない分、治療選択は金銭面も考慮して慎重になされるそうです。また、なんとこれは生体吸収ステントor DESの臨床ランダム試験であり、和気あいあいとした現場ながらステントには言及しないよう注意が払われていました。PCIは見事に成功し、その後いつの間にか起き上がって座っている患者さんの姿を見ると、これは当たり前のことではない、すごいことだという実感が沸き起こりました。その後はSt.Johnでの回診で、Macombと同じ要領で行われました。この時はARやHOCMの心音聴診もさせていただきました。途中2回心カテが入りましたが、2例とも冠動脈に異常はありませんでした。


木曜は朝にSt.Johnでフェローのカンファレンスを見学した後、オフィスに向かいました。初日と同じことをするものの、カルテに付いている心電図が少し分かるようになっていて嬉しかったです。この日も合間を見て色々なことについて講義してくださいました。


金曜はSt.Johnでのカンファレンス後、回診について行きました。その後はオフィスで心エコーの判読を教わり、本実習は終了となりました。
十分楽しみにして臨んだ本実習でしたが、ここまで楽しく、知識・見聞の広がる充実したものとは想像していませんでした。帰宅後も毎日ビリヤード、ジャグジー、星空鑑賞、散歩などに誘っていただき、こんなに楽しんでいて大丈夫かと得体の知れぬ不安を抱くほどでした。また、奥様の美味しい手料理もアメリカンフードに慣れていない私たちにとって毎日の楽しみとなっていました。何もかも先生ご夫婦が私たちのために隅々までご配慮くださったからに他ならず、お二人の気さくで寛容なお人柄のおかげでリラックスして過ごせたことに改めて感謝申し上げます。

最後に。本実習を通して、まず痛感したのは英語力の無さです。やはり一時の気合でどうにかなるものではありませんでした。しかし英語を避け続けてきた私が、普通に会話したいのに出来ないもどかしさから英語を身につけたいと感じたのは初めてのことでした。
そして教育、保険、開業、医療チームなど制度が違い、人々の気質も違うアメリカに赴き、その違いを肌で感じられたことは本当に貴重な体験だと思います。しかしまた、医療が”患者と医師1対1”の構図というより、連携する医療チームや患者と共に悩み判断を下す家族など多くの人々の存在の上に成り立っている点に違いはないというのも、臨床現場で働く先生の姿から学んだことであります。ついていくだけでもハードなので、絶えず頭と手を動かさなくてはならない先生のハードさはいかほどかと思いますが、特にPCI手技では目に見えて患者さんの容態が良くなり、苦労に見合うだけのやりがいある仕事であるだろうと感じました。私も本実習で教わったこと、感じたことを今後に活かし、やりがいと誇りある仕事をしたいと思いました。
本実習の素晴らしさが少しでもお伝えできていれば幸いです。ありがとうございました。

 

 

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デトロイト研修レポート 京都大学医学部医学科4回生 川端 智也

所属分野名:循環器内科
期間:2013年8月17日〜8月24日
活動内容(概略):アメリカでの医療の体験、臨床的知識の獲得

0. はじめに
マイコースプログラムの一環として、一週間デトロイトにて研修させて頂きました。デトロイトでは山崎博先生のご指導の下、主にSt.John病院、先生のオフィスにて数多くの貴重な体験をさせて頂きました。山崎先生、奥様の信子さん、並びに本実習を斡旋して頂いた、天理よろづ相談所病院の中川義久先生、循環器内科の尾野亘先生、有り難うございました。

1. 実習のスケジュール
<日本>
7/26-8/1 京都大学医学部付属病院循環器内科での研修

<アメリカ>
8/17 Detroit Metropolitan Wayne County空港到着
8/18 St.John病院見学、Henry Ford Musium見学
8/19 オフィス外来の後St. John病院にてカテカンファレンス
8/20 St. John病院にてカテ手術の見学→Macob病院での回診、
心電図スクリーニング→夜は救急の当番 (幸か不幸か一例もなかった)
8/21 St. John病院にてカテ手術、検査の見学→病院回診
8/22 St. John病院にてカンファレンス→オフィス外来
8/23 St. John病院にてグループミーティング→病院回診、カテ検査・手術
の見学→オフィス外来にて実習終了。その後デトロイト市中心部の観光
8/24 空港へ

2. デトロイト研修まで
本実習を知ったきっかけは、循環器内科の比較的序盤にあった、中川先生の講義、尾野先生の講義の冒頭で紹介されていたことです。心臓血管系に興味があった為、中川先生にご連絡差し上げて、応募致しました。アメリカの臨床現場を体験できるということで多数の応募者がおり、最終的には運任せで参加者を決定致しました。
デトロイトでの研修に先立ち、京都大学医学部付属病院の循環器内科にて、尾野先生の下で一週間研修させて頂きました。心電図や冠動脈造影等の講義して頂き、心エコーの体験、アブレーション手術やCCUの見学などもさせて頂きました。また、一人の患者さんを受け持ち、研修医の先生の下、検査や手術に同行し、毎日患者さんとお話しし、実際に電子カルテに仮記入する、という体験もさせて頂きました。最終日にそれぞれが受け持った症例についての発表をし、日本での研修は終了しました。

3. デトロイトでの暮らし
丁度日本での研修を前に、デトロイト市の財政破綻の報を受け、治安などへの懸念はありましたが、山崎先生曰く”治安は前から悪いですし、財政破綻の住民への直接的な影響はありません”との事でした。実際に現地で生活していても、住宅街はあまり治安が悪いようには見えませんでした。どこへ行くにも車で出掛ける為か、街の人通りは極めて少なく、稀に散歩やジョギングをしている方々を見掛ける程度だったのが印象に残っています。さすが車の街だけあって国産 (アメリカ産) の車が多く、その他は殆ど日本車、少しだけヨーロッパ車といった印象で、ハイウェイは全て無料であり (全てFreewayと表示されていた)、日常の移動にも気軽に使われていました。
今回は昨年までと異なり、山崎先生のお宅に泊めて頂くことができました。まだ引っ越しされたばかりでまだ改装中のお宅は、歴史的建造物に指定されている荘厳華麗なお屋敷でした。我々が使わせて頂いた部屋にはそれぞれバスルームがついており、先生、奥様、お子さんの部屋以外にも数え切れない程の部屋があり、広々とした庭やプール、ジャグジーまでありました。また滞在中は毎回先生に送り迎えをして頂き、朝晩は奥様の美味しい手料理を頂きました。

 

 

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<山﨑先生のご自宅>

 

4. St. John病院でのカテーテル手術、検査
アメリカでは手術の開始時間が早く、6時30分から開始ということも稀ではないようです。我々は毎日6時30分頃に朝食を済ませて出発し、7時頃に病院に着く、というスケジュールでした。カテ室に行くと既に準備が始まっており、先生は着替えた後検査画像を確認し、手術を開始しておられました。
我々が見学した症例は、LCxの狭窄に対するステント挿入術後の再狭窄の修復でした。カテーテル挿入後冠動脈造影を行い、狭窄部とその狭窄度を確認、その後修復という流れで、術前・術後の狭窄度の確認には、IVUS (血管内超音波診断装置) というデバイスを使っていました。このデバイスは検査したい血管の奥まで一旦IVUSカテーテルを挿入し、引き抜きながら超音波でイメージングした断面図を確認できるものです。正確な狭窄度の確認が出来ない冠動脈造影よりも確実に狭窄の残存などを発見でき、予後改善に大きな役割を果たします。また、断面図を連続してイメージングすることで、長軸方向の断面も確認することが出来ます。より正確にするためには、鼓動や呼吸による動きがある中、一定の早さで引き抜かなければなりません。
この日はLCxの狭窄の修復のみを行ったものの、RCAにも三箇所の狭窄が見られた為、翌日に再手術をすることになりました。RCAに関してはほぼ100%狭窄部のみステント挿入して終了しました。
カテ手術の見学では特に冠動脈造影への理解が深まりました。モノクロの二次元的な画面で見るため、知識がなければどれがどの血管なのか、手前に向かっているのか、奥に向かっているのか、ということが全くわかりません。先生が即席でハンガーを曲げて作って下さったモデルで位置関係がクリアになり、最終的にはどの角度から見ているかもわかるようになりました。

5. St. John病院、Macob病院でのカルテ回診
カルテ回診は循環器内科には限らず、様々な診療科において、循環器と関連のある (もしくはあると思われる) 症例について回診していくものです。事前に割り当てられたものがリストアップされており、回診していきます。それぞれの病室の入口横には各患者のカルテや検査資料が入っており、それをチェックした後、実際に患者さんに問診、必要ならば触診等を行います。
アメリカの看護師の中には日本には導入されていない、NP (Nurse Practitioner; 特定看護師)という資格を持つ方々がおり、臨床医と看護師の中間の役割を果たします。医師と同じように診断することができ、特に医師の少ない地域では完全に医師と同じ役割を担います。しかし基本的にはNPの診断を医師が見直し、確認するのが一般的で、St. John病院もそうでした。NPの皆さんはとても良い仕事をされていて、先生は大抵の症例に対し”I agree”と書くだけで済んでいました。Wikipediaによりますと、現在アメリカの登録看護師の4%にあたる約15万人がNPの資格を持っている、とのことです。
ここでは聴診器による心音の聴診を体験させて頂きました。また、先生のご指導の下、集中して数多の心電図スクリーニングを行った為、素早く正常かどうかを見分け、異常所見があればその原因を連想する、という非常に良い練習になりました。

6. オフィス外来
山崎先生は何人かの医師と共にEastside Cardiovascular Medicineという診療所を開業されており、そこでの外来にも同行させて頂きました。この診療所では、循環器関連疾患に罹患していいる患者さんの中で、比較的病状が安定している方の診察、フォローアップを行っています。アメリカの開業医制度は日本とは大きく違い、オフィスで診察した中で、更に検査、手術が必要とされた方はSt. John病院等の病院に、逆にSt. John病院等で症状が安定したとされる方はオフィスに、という契約で成り立っています。開業医である山崎先生が先述のような病院回診を行っているのも、アメリカの開業医制度が日本と異なる点の一つです。
ここでは患者さんのカルテを見て必要な情報を抜き出し、先生に伝える、という練習をしました。また診察にも同行し、先生がどのように診察を行っているのかを見せて頂きました。診療所内にはトレッドミルもあり、実際に負荷心電図を取るところも見せて頂きました。

7. 謝辞
お忙しい中、未熟な我々をご指導頂きました山崎先生、毎日美味しい手料理を振る舞って下さった奥様の信子さんに重ねて御礼申し上げます。今回の実習ではアメリカの現場での医療を体験でき、多くの知識を授けて頂いただけでなく、快適な滞在を楽しませて頂きました。有り難うございました。

 


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