Detroit

デトロイト病院研修を終えて    京都大学医学部医学科4回生 白田 全弘

1.はじめに

はじめに、今回このような形で海外の病院見学という貴重な体験をさせていただくことができたのは、多くの方のご好意、ご協力があってのことであり、全ての関係者の皆様に感謝を申し上げたいと思います。渡米先でお世話になった山崎先生やご家族の方々、デトロイトでの病院のスタッフの皆様、そして、渡米前に突然お邪魔したにもかかわらず、私たちの為に御腐心下さいました京大病院循環器内科の先生方、スタッフの皆様、本当にありがとうございました。

2.研修の概要

2009年8月24日(月)~8月28日(金)の5日間、Detroitで循環器専門医として活躍されている山崎博先生のもとで、研修させていただきました。詳細は後述しますが、先生はSt. John Hospitalを中心とする複数の病院と、office(診療所)の両方で働いていらっしゃいます。今回の研修でも、病院とofficeの見学が中心となりました。

1)病院見学

St. John Hospital, St. John Macomb Hospital, Beaumont Macomb Medical Centerの3病院を見学させていただきました。先生の仕事内容としては、病棟回診(round)が中心で、時に(と言っても多い時には1日5例も)PCIなどの治療も行う、という感じでした。   病棟回診の流れとしては、担当患者さんのいる病室へ⇒各病室前に置いてあるカルテを確認⇒患者さんを診察⇒最後にカルテに記載*、この繰り返しとなります。まだ4回生である私たちは、日本でも正規の臨床実習さえ受けていないので、当然ながら患者さんの診察はできませんでしたが、先生と患者さんのご好意のお陰で、病室内で診察の様子を見学させていただいたり、時に聴診や動脈触知などもさせていただくことができました。そして、移動中など多忙の合間を縫って、先生は私たちに多くの知識(循環器の分野だけでなく、内科全般の知識)を与えて下さいました。先生の講義はとてもわかりやすく、その知識量の多さにただただ圧倒されると同時に、臨床系の講義で一度は学習したはずの内容が、記憶から失われていくスピードの速さを痛感しました。
PCI見学では、基本的に外のブースで画像を見ながらの勉強となりました(時には実際にカテ室の中に入り、間近で手技を見させていただく機会も設けて下さいました)。ACSが疑われる症例に対するカテーテル検査、バルーン・ステントを用いてのPCI施行術が大部分でしたが、ロータブレータの適用例やIABP施行術などの手技も見ることができました。基本的には、日本(京大病院)で行われている治療法とほぼ同じという印象を受けました。また、スタッフの方々は、英語での私たちの拙い質問にも、イラストを交えながら(時に本物のカテーテルを用いて)丁寧に説明して下さり、理解が深まりました。
この他にも、毎週行われるclinical conferenceや、夕食をいただきながらの勉強会(luncheon seminarのようなもの)にも同席させていただくことができ、貴重な経験となりました。

2)office見学

office(診療所)では、外来での診察の様子を見学させていただきました。こちらでは、病院での病棟回診と違って1人ずつの見学で、残りは詰所で待機し、その間は先生に出題していただいたquizの答えを調べたり、持参した教科書などを用いて自習したりしていました。
循環器専門のofficeとは言えど、中には循環器以外の様々な疾患を合併している患者さんもいましたし、その一方で、術後の経過観察目的で来院され、特に問題はないという患者さんもいらっしゃいました。そのような様々な患者さんに対して、先生は一人一人ゆっくりと時間をかけて診察し、患者さんに必ず納得して帰っていただく、という方針を貫いておられました。そのような先生の姿勢を見習い、将来は山崎先生のような医師になりたいと思いました。

3.アメリカの医療を見て感じたこと

第一に、医療形態が日本と大きく異なっていることに驚きました。アメリカの医療現場では(少なくとも山崎先生が働いていらっしゃるDetroit近郊のRosevilleという地域では)、一人の患者さんを複数の医師・看護師が担当するという基本スタイルをとっています。これについて、少し説明を加えさせていただきます。
山崎先生は、Eastside Cardiovascular Medicine, P.C.という循環器専門のoffice(診療所)を開いていらっしゃいますが、これは個人ではなくグループでの開業です。診療所のメンバーは周辺のいくつかの病院と契約し、診療の上で入院や専門的治療が必要と判断した患者さんを、その内のいずれかに入院させ、以降も自分がその病院に通って回診をするという仕組みです。さらに複雑なのは、一人の患者さんを一人の医師がずっと担当するのではなく、診療所に通う患者さんは診療所のメンバー全体で管理するということです。つまり、それぞれの医師には診療所での診察担当の日、病院での回診担当の日というものが振り分けられており、日に応じてどちらで・どの患者さんを診るかが変わるわけです。この形態は、基本的に病院では勤務医が、診療所では開業医が、それぞれ患者さんを担当する日本の医療システムとは、大いに異なっています。
アメリカの医療のように、一人の患者さんを複数の医師・看護師が診ることで、思い込みやミスによる誤診を防ぐばかりでなく、治療の幅を広げることができると思いました。しかしその分、複数の医師・看護師間での正確な引継ぎが要求されるわけで、その上で重要な役割を果たすカルテの完全電子化が急がれるものと感じました(というのも、手書きのカルテ*には読めない字が多く、先生もたまに解読に苦労することがある、とのお話でした)。

第二に、職場の雰囲気がとても明るく、医療スタッフの方々は皆生き生きとしているという印象を受けました。また、患者さんも非常に主体的で、自分の病気と自分が受ける治療や薬についてとてもよく理解していました。"以心伝心"に重きを置く日本と違い、会話でのコミュニケーションを大切にするお国柄か、医師と患者は、まるで友人同士であるかのように親しげに挨拶を交わし、語り合います。そうすることで、医師は患者の状態をより正確に理解でき、患者は医師を何でも相談ができ信頼の置ける先生として、また、時には話し相手になってくれる良き友人として、相互に有益な関係を築いているように見受けられました。
informed consentが叫ばれるようになって久しい我が国でも、アメリカの医療現場を見習う余地はまだまだあると思いました。

第三に、セミナーやカンファレンスでの意見交換がとても活発であるように感じました。英語力に乏しい私にとって、専門単語の飛び交う討論の場には若干息苦しさを覚えましたが、それでも、ベテランの医師の見解に若手が意見し、それに対してまた別の医師が発言する、といった場面が繰り返され、医師・看護師の方々の熱意を感じることができました。
山崎先生もおっしゃっていましたが、英語にはいわゆる"敬語"という概念が存在しません。そういった言語観も、ベテランと若手、医師と看護師、さらには医師と患者などといった立場の溝を埋めるのに、一役買っているのかも知れないなと思いました。

4.終わりに

病院研修やoffice見学の他でも、山崎先生には大変お世話になりました。現地での宿泊地の確保から毎日の送り迎えに至るまで、すべて先生がして下さいましたし、研修前日の日曜日には、丸1日かけて先生に案内していただき、デトロイト観光(Henry Ford Museum, Greenfield Village)を満喫することができました。さらに、ご自宅に二度も招待していただき、食事を御馳走して下さいました。ご家族の方にも良くしていただき、奥様が嗜んでいらっしゃる版画や人形の作品を見せていただいたり、娘さんのフィールドホッケーの試合観戦に連れて行っていただいたりしました。

わずか1週間余りの短い研修でしたが、いろいろなものを見て、学び、感じ、そして考えるきっかけになった素晴らしい体験でした。本当にありがとうございました。
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デトロイト病院実習 京都大学医学部医学科4回生 武井玲生仁

はじめに

米国の医療事情を学ぶため、2009/8/24~28の5日間、デトロイトでの病院実習に参加させていただきました。元々米国の医療に興味があり、将来の進路を考える上で貴重な体験となることを期待し、今回応募しました。実習では見学が中心となり、St. John Hospital、St. John Macomb Hospital、Beaumont Macomb Medical Center の3病院と、山崎先生のオフィス(複数の医師が共同で開業)を見学させていただきました。
St. John Hospital は地域の基幹病院としての役割を果たしている大きな病院で、患者層も大変に多岐に渡ります。入院患者の受け入れ方法は日本と異なり、まず近くに開業されている医師は病院と契約しており、その医師のオフィスで患者の診療を行った上で入院が必要と判断した場合に、その患者は入院されます。その後はオフィスのスタッフ全体でその患者を受け持ち、回診などを日替わりで行なうようです。

実習内容 1.回診

病院での見学は回診が中心となりました。回診中は病室の外で待機となりましたが、何度か病室内での見学を許され、実際に山崎先生の問診を見学させていただいたり、聴診や触診をさせていただくこともありました。問診の流れは基本的に日本とさほど変わらないように思いましたが、問診内容は麻薬の既往や保険について言及することが多々見られ、日本との相違を感じました。
回診の待機中は、山崎先生からだされた問題を考える時間となりました。問題の内容は、症状から疾患を考える問題、逆に疾患から症状を考える問題、また薬の薬理作用や副作用を考える問題などがあり、その分野は循環器内科にとどまらず、医学全般に渡っておりました。またその問題に関連して、CHADS SCOREやINRなどの検査項目についてや、stent、置換弁、ICD 、ペースメーカー、PAPなどについて詳細に教えていただきました。例えば、胸痛をおこす疾患は何か、という問題に対しては、AP、AMI、大動脈解離、心外膜炎、胸膜炎、食道炎、逆流性食道炎、食道のspasm、気胸、肺塞栓症、肺がん、消化性潰瘍、胃がん、胃炎、膵がん、膵炎、胆嚢炎、などを答えとして挙げられ、十分に答える事ができず、学部の勉強で一度は学んだはずの内容がいかに不確実であったかが浮き彫りとなり、また症状からのアプローチの不慣れさも実感いたしました。
カルテの記入に関しては、手書きでの記入もされていましたが、山崎先生は特にディクテーションによる記入を多用されていたように思います。ディクテーションとは、診療行為や問診の内容などを病院の電話機を通じて録音機に吹き込み、ディクテーションサービスを通して医療秘書の方々(世界中にいらっしゃるそうです)がその内容をタイピングし、そしてその後に確認と署名を行うことをいうそうです。放射線科の画像解読報告も、このシステムを通じて行われているとのことでした。

2.PCI

St. John HospitalではICCを見学させていただく機会もありました。ほとんどの症例が大腿動脈ではなく橈骨動脈からのLHCで、PTCAに移る場合は多くの症例がバルーンかStentで、ローターブレーダーと IABPに関してはそれぞれ1症例だけ見学させていただきました。
PTCAでDES(Drug Eluting Stent) を用いた症例の中には、zotalorimsをコーティングしているDES(商品名:ENDEAVOR)の使用が多く見られました。このDESは米国で平成20年に承認され、日本でも平成21年3月に承認されたばかりの新しいデバイスで、その有効性と安全性が大きく期待されています。今回の実習で感じたのは、日米のPTCAに関しては特に大きな差異はなく、日本はデバイスの承認こそ米国に遅れるものの、その治療法や技術力は高く、米国と比較してもなんら遜色のないように思いました。
またLMT(LCA主幹部)に対するアプローチも見学する機会がありました。治療法としては、教科書的にはCABGが第一選択(PCIは禁忌)と勉強しましたが、DESの普及により、最近ではPCIが選択肢の一つと考慮されることも多いようです。ですがまだまだ課題も多く、今後のエビデンスと選択基準の確立が求められます。

3.外来診療

オフィスでは外来診療の見学が中心でした。日本で開業されている多くの医師と異なり、数名の医師が共同で開業し、各医師が曜日ごとにオフィスでの外来を担当する形態をとっていました。外来診療では、私たちは順に一人ずつ先生と共に診察室に入って診察を見学させていただき、それ以外の時間は個室での待機となりました。
また、オフィスでのカルテ記入もディクテーションを利用されていましたが、病院のそれとは異なり、純粋にオフィスでの診療記録やテストの結果だけを、オフィスで雇っている秘書さんがタイピングしているそうです。

考察

日米の医療制度の違いの一つに、PA(Physician Assistant)やNP(Nurse Practitioner)の存在が挙げられます。PAとは、医師の監視下で医療行為を行うことが可能な職業で、日本では医師が行なっている医療行為の大部分をカバーできます。また、NPは上級看護士のようなもので、患者の臨床状態を判断し処置実施をオーダーすることが可能です。メリットとしては、医師の日常業務からの脱却、医師よりも短い育成期間、人件費の削減などが挙げられ、デメリットとしては、経験不足による合併症リスクや、医師に比べ責任感が低くなりやすく医療の質の低下が起こりうること、などが挙げられます。最近では日本でも関心が高まってきていますが、法改正などの問題も多く、まだまだ十分に検討を重ねる必要があるようです。
医療保険制度の違いも確認できました。日本では国民皆保険が適応されており、日本国民であれば保険適応内の治療は受けることが可能です。ですが、米国には国民皆保険は存在しません。現在は国民皆保険の実現に向けての動きがあるようですが、まだまだ実現には時間がかかるようです。米国の代表的な公的医療保険制度には、高齢者、身体障害者、慢性腎不全患者が対象のMedicare、低所得者が対象の Medicaidがあり、非対象者の多くは民間保険会社の医療保険に加入します。民間保険には、FFS(Fee for Service)やManaged Careなどがあります。FFSとは従来から存在する医療保険で、医師と患者が治療方針を決定し、そのコストは保険者が負担する、というタイプの医療保険で、一方Managed Careとは、保険者が医療方針を管理できるタイプの医療保険です。また、医療保険に加入しない人が多いという現実もあり、患者層の偏りが伺えます。米国の医療保険の種類は多岐に渡り、さらに医療保険加入の有無やその種類によって、掛かることのできる病院や治療法も決まってきます。そのため米国では、問診による医療保険確認は大変に重要な項目となるようです。米国における医療と経済との結びつきの強さを実感いたしました。
コミュニケーションの重要性も実感できました。複数の医師が共同で一人の患者を診るため、医師同士や他のスタッフとの連携が大変に重要になります。コミュニケーションを充実させる事で、情報交換をよりスムーズに、より正確に行なうことができ、医療の質の向上に大きく貢献しているように思いました。また、カンファレンスに参加させていただく機会もありました。カンファレンスでは、立場に関係なく活発な意見交換が行なわれ、積極的な自己アピールの場となっていました。敬語が存在しないことも大きいとは思いますが、沈黙こそが美徳と考える日本とは違う、米国ならではの文化を実感する事ができました。

謝辞

デトロイトに滞在中お世話になった山崎先生をはじめ、ご家族の方々、スタッフの方々、さらには今回実習の準備として出発前に指導していただいた京大病院スタッフの方々、この場を借りてお礼申し上げたいと思います。今回の病院実習を終えて、日米の医療制度の違いや医療環境の違いなど多くの事を学び、非常に有意義な実習となりました。実際に米国の病院の空気を肌で感じ、日本にいては気づかないことも多く、大変貴重な経験をさせていただきました。このような貴重な機会を与えていただき、大変に感謝しております。ありがとうございます。
デトロイト見学

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